8月11日放送のニュース番組「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日系)の中で、今回の暴力事案についてこんなことを言った。
「SNSの何気ない投稿が高校球児の夏を終わらせてしまうということも投稿する前に考えてほしいと思います」
これが2年前の暴力被害を訴えた被害者のSNS投稿を「何気ない」ものだと言っているのか、と叩かれているのだ。
一方、これは広陵高校野球部に対するSNS上の誹謗中傷に対しての発言だという擁護もある。だが、そもそもなぜ叩かれているのかというと、広陵高校が複数の「暴力事案」にまともに向き合っていなかったことが、SNSによってバレたからだ。
マスコミが機能不全に陥っていてこういう問題を報じていなかったことを棚に上げて、SNSユーザーに対して上から目線で説教するから、「マスゴミ」などと嫌われてしまうということも発言する前に考えて欲しいと思う。
そして、こういう「情報戦」はフジテレビ問題でもあった。
事件発覚当初から、いわゆる「ギョーカイ人」が中居さんを擁護するような主張を展開。「文春の情報は一方的」「Aさんは中居さんと交際したかったが、断られたので急に被害を告発した」などと事実無根の話を広めていた。
もちろん、狙いはAさんの信用をおとしめて「スター」を守ることだ。第三者調査や報道で中居さんがAさんに何をしたのかということが明らかになった今でも、中居さんの熱心なファンや、一部のギョーカイ人はAさんを執拗(しつよう)に攻撃している。
このような「被害告発者バッシング」は構造の似ている広陵高校問題でも起こり得る。
8月10日、広陵高校が野球部員や保護者らに出場辞退の経緯を説明したが、スポーツ報道では暴力・イジメを受けた側の視点はゼロで、野球部員と保護者を「理不尽な目にあった被害者」として扱っている。
「目に涙をためていた生徒も…」広陵、部員や約250人の保護者らに辞退の経緯説明 選手、保護者から質問はなし【夏の甲子園】(中日スポーツ8月10日)
確かに暴力やイジメに加担せず、一生懸命に練習に励んできた部員には罪はない。しかし、彼らが気の毒だからといって、暴力事案を放置してきた指導者たちがお目こぼ溢しを受けてこの問題がチャラになるわけがない。
カップラーメンを食べていただけで複数人で暴力を振るうするというのは、まともな感覚ではない。加害者側もかつてそのような“制裁”を受けたのか。あるいは、寮や部活内に「言ってもわからないやつは体で教える」というカルチャーがあったのか。「高校野球は教育の場」だというのならば、徹底的に調査をしていくべきだ。
「汗と涙の甲子園」の陰で、「暴力やイジメの被害を受けても目に涙をためて泣き寝入りした被害者」が無数にいる。
こういう醜悪な現実からいつまでも逃げ回わって、「感動ポルノ」ばかりを垂れ流し続けるのなら、朝日新聞は「報道」の看板をおろした方がいいのではないか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)
