さらに、生成AIによるコンテンツ制作の実証実験も進行中だ。生成AIが公開済みページや論考記事、営業資料からコーポレートサイトのコンテンツを自動生成する。これまで複数チームで行っていたことが、一人で数分のうちにできるようになり、生産性の向上に新たな可能性を示している。
変革の土壌が整うと、マーケティング人員を25%最適化し、成長領域・高付加価値業務へと再配置した。重複していたコンテンツを統合・削除して真に価値のあるものだけに絞り込み、浮いた予算を集中投資することで個々の品質が格段に向上。「数撃てば当たる」から「少数精鋭で確実に当てる」戦略により、マーケティングコンテンツを半分に削減しながら、ブランド価値を25%向上させることに成功した。
AIによる単純な効率化では、競合の追随を許してしまう。AIで創出した余力をどう活用するかで、真の競争優位が決まるのだ。
AIと働くようになって「反省」したこととは?
AI活用が進むにつれ、効率化や生産性向上とは別の変化も現れた。人間の思考そのものが変わり始めたのだ。
矢野氏は、AIと働くようになって「自分は今まで、なんて曖昧な指示をしていたんだ」と反省したという。日本語のコミュニケーションは、良く言えばあうんの呼吸、悪くいえば曖昧だ。しかしAIは、ふわっとした指示では期待通りの結果を返してくれない。
例えば、どの職場でもよくある「過去の売上データを出して」という依頼。これまでは部下が上司の意図を推測し、適当な期間のデータを用意してくれていた。しかしAIに依頼するには「3年分か5年分か」「事業売却などの特殊要因は含むか」といった要件を明確にする必要がある。AIとの対話を重ねることで、人間同士のコミュニケーションも良くなるのではないだろうか。自分が何を求めているかを明確に言語化する習慣が身につくからだ。
AI活用の本質は、人間の可能性の拡張にある。矢野氏はこれまでWebサイト制作の経験がなく、コンテンツを掲載するには専門チームに依頼せざるを得なかった。しかし、これだけ激動のIT業界にあっては掲載されるまでに内容が古くなることもある。AIを使えば、HTMLの学習コストを肩代わりしてくれて、最新の知見を盛り込んだ質の高いページを自分の力で作成できる。
技術とともに、人間もまた進化し続けている。