
「日本は遅れている。MicrosoftやGoogleは、少人数チームでアジャイルに開発している」――2017年、そんな若手の一言で始まったニコンの少数精鋭による社内AIサービス開発。2023年には国内トップクラスのスピードで生成AIを導入し、今では全社で34万時間、1人当たり週3.5時間ほど業務時間の削減を果たしている。成功の理由は、どうやら3つあるらしい。(ノンフィクションライター 酒井真弓)
2023年、いち早く社内生成AIサービスをリリース
冒頭の一言をきっかけに、2017年から内製でAIサービスを開発してきたニコン。2023年に国内トップクラスのスピードで社内生成AIサービス「IGIチャット」をリリースできたのは、2019年のGPT-2登場時から虎視眈々と技術動向を注視していたからだ。
「GPT-2が『あまりに高度な文章が作成できるので危険すぎて公開が延期された』と話題になり、気になって調査していた」と横井氏。当時は「小説は書けるが業務には使えそうにない」と見送ったが、2022年後半のGPT-3登場時には即導入を決定。わずか1カ月で「IGIチャット」のリリースにこぎつけた。
国内トップクラスのスピード導入。「1番じゃなかったことには、『やられた!』と思いました」と横井氏は笑う。
試行錯誤から得た最大の教訓は「内製の重要性」だった。
「新たな技術領域では、社内でのトライ&エラーが不可欠です。要件を決めて外部に発注するだけでは、失敗から学ぶ循環が生まれません。内製チームを作って自分たちの手で開発することで、ノウハウが蓄積され、次の挑戦にも生きる。結局はそれが成否を分けるのです」