転院前の金沢聖霊総合病院から伝わっている症状は「10年前の脳梗塞」と「誤嚥性肺炎」だけなので、できればCTスキャン、胃カメラ、MRIなどの再検査をして、がんが本当にないのかを確認したい、そこで今後の病状の予測を立てたいと言われた。了承した。

 次に件のCVポートの説明を受けた。

 まず、現段階で家族が「口から直接食べられないなら、死なせてあげたい」と思ったところで、すでに埋め込まれているCVポートを外すことはできないのだという。また、CVポートは濃い点滴を身体に送っているため、菌が繁殖しやすく、数ヵ月から数年後の範囲内で必ず合併症を起こすそうだ。そのときにCVポートを外し、以降は装着しないという選択を家族がすることは可能だという。いろいろと納得した。

 最後に、心臓が止まった場合に蘇生させるかどうかという話になり、それは行わないことを互いに確認した。80歳と高齢なので、誤嚥で亡くなる可能性や、朝起きたらすでに亡くなっている場合もあるそうだ。まあ、老衰の範囲内なのだろう。

 2ヵ月後には、療養型の「映寿会みらい病院」に転院するという。父も人生の最期のステージに入った。動けない、喋れない、口から食事ができない中で、せめて「思い出す」ことがたくさんできていたらいいなと思う。もはや妄想、記憶の改竄でもいい。光あふれる楽しい思い出は、死ぬ寸前の慰めにはなるだろうから。

 担当医から電話をもらった日より少し前の、5月24日。奈良・明日香村での取材を終えたところで、スマホが鳴った。

コロナ禍のなかで
最後の面会は果たす

 出てみると西病院の看護師からで、父の見舞いの件について相談したいという。当時、石川県では「訪問お見舞い」に関して検討すらされておらず、西病院が積極的に先立って行う予定もないとのことだった。

「ただ、Zoomであればお父様とおつなぎすることはできます。30分以内ですが。どうされますか」

 どうやらこれは看護師が患者の家族や身内を慮ってやっているボランティアのようだ。30分間、その患者に張り付きになってほかの業務ができないのに、なんとありがたいことか。ぜひお願いしますと答えると、「ではお手数ですが、Zoomを予約して、その番号(ミーティングID)をFAXで送ってください」と返された。