え?ふぁっくす?最後に触ったの、20年くらい前じゃない?ニューヨーク・タイムズ東京支局で記者をしている知人によれば、FAXは「スミソニアン博物館に展示されている代物」だよ?
気を取り直してメアドはないのか尋ねると、「ありません」ときっぱり。電話だと番号を聞き違えたり書き間違えたりするから、FAXがよいという。
京都まで帰る車の中で、運転中のカメラマンに「金沢くらいの地方都市の病院でも、メアドってないんですねえ」と話しかけると、「いまだにフロッピーを使う自治体があるくらいですからねえ」と言うので、笑った。山口県阿武町で、誤って1世帯に4630万円を振り込んだ、いわゆる誤送金問題が起きたばかりだった。
父との会話に困ってしまい
つい口走ったひと言
6月3日、父とのオンライン面会が叶った。
画面に映る父には歯がなく、漫画でよく見る「ふがふがおじさん」みたいだった。「香織だよ。わかる?」と尋ねると、目を一瞬ギュッと瞑ってくれた。「わかる」の意味なのだろう。
話せない父に、私は一方的に自分の近況を伝えた。いまは京都に住んでいること、ライターとして頑張っていること、いまだ独身であること、幸せな日々を送っているから心配しなくて大丈夫だということ…。

そこまで話すと伝えることがなくなり、苦し紛れの口から出たのは、「そういえばお母さん、一昨年死んだんだよ。留守電に入れておいたけど、知ってる?」という言葉。臨終間際の親にひどい話をする娘だと、父のそばにいた看護師は呆れたに違いない。
最後に「病院が対面のお見舞いを許してくれたらすぐに会いに行くから、それまで待っててね」と言うと、父はまた目をギュッと瞑った。
それが生きている父を見た、最後だった。