さらに、遺産分割協議において、どの相続人が収益のあるアパートを所有するのか、相続人同士の話し合いが対立した場合は「争族」の原因になりやすい。例えば、特定の相続人がアパートを相続した場合、他の相続人に同等の価値の財産を渡す必要がある。(代償分割)
最後に5つ目は「債務の相続」だ。アパートを建てるために高額のローンを組んだ場合、その借金も相続財産となる。債務控除ができるため相続財産を減らせるメリットはあるものの、相続人からすると想定以上の借金の相続に驚くことも少なくない。
相続人は、アパートという資産だけでなく、多額のローン債務も同時に引き継ぐことになり、相続後長期にわたって重い負担となる可能性があるのだ。特に、アパート経営で赤字が続き、さらに空室も多い場合は、相続人が返済のために自己の財産から持ち出さざるを得ないリスクもある。
こうしたリスクを十分に理解せずに「相続税対策」という目的だけで安易にアパート経営を始めてしまうと、かえって経済的な負担や相続人間のトラブルを引き起こすことになりかねない。アパート経営を検討する際には、単なる節税ではなく、事業としての収益性や将来的なリスクまで含めて慎重にシミュレーションすることが不可欠だ。
アパート経営に欠かせない
「出口戦略」とは
アパートの安定経営を目指すなら、経営を始める前はもちろん、経営中でもどのように経営を終わらせるべきか「出口戦略」を考えてほしい。では、出口戦略とは具体的にどのようなものか。
まず早期の修繕の検討は必須だ。アパートの価値が比較的高い築浅のうちに大規模修繕を行うことで、資産価値を維持できる。資材が高騰している今、早めに修繕を行うことでコストを下げる効果もある。
不動産人気が集中しているエリアにアパートがある場合、高値で売却できるタイミングが来たら、継続して所有するか売却するかシミュレーションをし、見極めることも大切だ。
収益性のあるうちに子どもや孫に生前贈与を行い、経営を引き継いでもらうことも有効な選択肢である。経営者が高齢になり、認知症などを患うと経営判断が難しくなり成年後見制度が必要となる可能性も高くなる。早期に相続財産を移転することで、安全に経営者を交代でき、さらに収益が受贈者へ移ることで相続税の負担を軽減する効果も期待できる。
築年数が相当経過し老朽化が進んで採算が取れなくなったアパートは、思い切って解体することも検討しておきたい。解体費用はかかるが、土地を更地に戻すことで売却しやすくなる。収益性の低いアパートを無理に保有し続けるよりも、売却して現金化するという選択肢は賢明であろう。売却で得た現金を他の事業に投資したり、現金を生前贈与として少しずつ子へ渡したりすれば、将来の相続税対策につながる。