
相続税対策の王道として知られてきた「アパート経営」は、高額のローンを組むことによる債務控除や、自己所有の土地を「貸家建付地」として評価することによって、相続財産の評価額を下げる効果がある。「貸家建付地」の評価は自己所有の土地に賃貸アパートを建てることで、更地として評価される場合と比較すると、土地の相続税評価額が減額されるなどのメリットがある。建物についても、借家権割合が差し引かれることにより評価額を下げられるため、アパート経営は全国で広く相続税対策として活用されてきた。しかし、アパート経営のリスクは円安などを理由に、近年急激に増大していることも知っておくべきだろう。現在すでにアパート経営を行っている人も「出口戦略」を検討する時期が来ている。そこで、本記事では税理士がアパート経営のリスクについて、相続税の視点から徹底解説する。(税理士・岡野相続税理士法人 代表社員 岡野雄志)
アパート経営はなぜ
相続税対策に有効なのか
アパート経営が相続税対策に有効とされる主な理由は、相続財産の評価額を大幅に引き下げられることにある。例えば、現金は額面通りに評価されるのに対し、不動産はさまざまな要因によって評価額を減額することが可能だ。評価を下げるポイントは、主に以下の4つである。
1つ目は「土地の評価額が下がる」ことだ。自分の土地にアパートを建て、他人に貸し出すことで、その土地は「貸家建付地」として評価される。借り主がその土地を利用する権利(借地権)が発生するため、更地として評価される場合に比べて、土地の相続税評価額が減額されるのだ。
2つ目は「建物の評価額が下がる」ことだ。建物の相続税評価額は、建築にかかった費用ではなく固定資産税評価額が基準となる。固定資産税評価額は一般的に建築費の50%~70%程度に留まる。
さらにその建物を他人に貸している場合は、借家権割合が差し引かれ評価額をさらに下げられる。結果として、建築にかかった費用よりも大幅に低い評価額で相続財産に含めることができるのだ。
さらに3つ目には「債務控除と特例の適用」がある。アパート建築のために借り入れたローンは、債務控除として相続財産から差し引ける。債務は相続時において、必ずしも悪ではないのだ。また、アパートの敷地は「貸付事業用宅地」として、小規模宅地等の特例の適用対象である。特例が適用できれば200平方メートルまでの部分の評価額が50%減額される。こうしたからくりから、アパート経営は根強い相続税対策として人気があるのだ。
最後に4つ目は「納税資金の確保」である。相続税は現金で一括納付が原則だ。不動産ばかりで現金や預貯金が手元にない場合、相続税を支払うために不動産を売却しなければならないおそれがある。しかし、アパート経営による家賃収入を預貯金として蓄えることで、相続税を支払うための資金を準備できるというメリットもある。