この実験では、実験者から命令された人が、その命令に従って見ず知らずの他者(実際にはサクラ)に強い電気ショックを与えるのかどうかが調べられました。直接的に自分の手で相手の手を押さえて電気ショックを受けさせるという状況では、70%の人が強い電気ショックを与えることを拒否します。
しかし、相手が隣の部屋にいて、相手の反応が見えなくて声も聞こえない状況では、強い電気ショックを与えることを拒否する人は35%にまで低下します。相手と距離があって、相手の苦しむ様子が見えないことは、攻撃への心理的な敷居を大きく引き下げるのです。
また、文字によるコミュニケーションでは、対面では表現しづらいようなことも表現されやすくなることが知られています。
たとえば、毎日顔を合わせるクラスメートが相手でも、恋愛の告白となると、下駄箱に手紙を入れるなど、文字によるコミュニケーションの方が好まれますよね。相手の顔を見ず、声を聞かないで済む、そして自分の顔を見られず、声を聞かれないで済む文字によるコミュニケーションだからこそ、表現できることがあるのです。
SNSによるチャットの相談では、性的マイノリティであるがゆえの悩みのような、打ち明けるのに勇気がいる内容の相談が、対面や電話の相談よりも多くなります。これもまた、面と向かわない文字によるコミュニケーションだからこそのことでしょう。
特に、怒りの感情を伴う内容の場合、あまりに感情がたかぶると身体的な暴力になりかねません。その点、文字によるコミュニケーションでは、どれだけ怒りに任せて表現しても、相手に身体的に暴力を振るうことはできません。そのことが、怒りの表現に対する抑制を解くという面もあるのだと思います。
SNS上で攻撃的な人ほど
リアルで不安定な立場にいる!?
カウンセリングなどの心理的な支援では、安全性を確保しながら十分に感情を表現してもらうことは大事なことですから、文字で怒りを表現できるのなら、思う存分、怒りの思いを綴ってもらうことには肯定的な意味があります。