メディア興亡Photo by Shuhei Inomata

毎日新聞が進める賃金制度改革を巡り、社内で混乱と動揺が広がっている。従来の年功序列型から、評価と役割に基づく能力重視型への移行を目指すが、社員からは「説明が不足している」との声が相次ぐ。会社側は制度移行ありきの強硬な姿勢を見せ、一時は労働組合との団体交渉を拒絶する事態に発展した。一体、毎日の社内で何が起きているのか。連載『メディア興亡』の本稿で、新制度の中身と混迷を極める労使交渉の全貌を、内部資料から明らかにする。(ダイヤモンド編集部 猪股修平)

賃金改定を認めない組合に経営は団交拒絶
社員「中身が不透明で会社の意図が分からない」

 毎日新聞社内で起きている新賃金制度の巡る経過はこうだ。

 始まりは2023年9月27日のこと。労働組合との定例社長団体交渉(団交)の場で、松木健社長が賃金制度を見直す方針を示した。「総賃金を減らすつもりは全くない」と、人件費削減を狙った制度改革ではないことを合わせて強調した。

 とはいえ、毎日の経営環境は決して楽観視できる状況ではない。

 松木社長が社長に就任したのは22年4月。当時、売上高の6割を占める商品である新聞の発行部数は約184万部と、10年強で半減していた。23年3月期(22年度)決算では、毎日新聞単体の売上高は600億円を割り込み、営業赤字は12億円弱に達した。

 賃金制度改革に着手した背景には、そうした経営の雲行きの怪しさがあったとみられる。実際、前年の22年10月に発表した中期経営計画の中には「総人件費の抑制」「安易な増員は避ける」「手当見直し」といった文言が並んでいた。

 松木社長の宣言から時を置かずして23年11月21日、毎日は賃金制度の見直しをする方針を社員に公表した。所定時間内労働以外に対して支給される「基準外賃金」については24年4月より先行的に、所定時間内労働の「基準内賃金」に関しても24年度中に見直す、という内容だった。この時点で、松木社長が述べたような総賃金を減らさないという証拠は具体的に示されていなかった。

 労働組合執行部は同27日、総賃金の減少がないと確認できる試算の開示を会社側に要求するとともに、組合の求めに対応しない場合は労使交渉に応じないことを決めた。

 そして12月13日、会社側が開示した月給の増減シミュレーションにおいて、驚愕の事実が明らかになった。「残業代などの補てんを除いた場合、組合員の平均で1万円強の減収」との試算が出たのだ。これを受けて組合は、一方的な賃金改定を認めない姿勢をあらわにした。組合と会社の間の溝が決定的になった瞬間だった。

 翌年2月、毎日は組合の新賃金制度導入拒否の姿勢に対して、開催予定だった賃金団交を中止し、一方的に新賃金制度の社員向け説明会を開催していく強硬な態度を見せつけた。

「正当な理由のない団交の拒絶は労働組合法違反に当たる」として、労組側は猛反発。結果、3月には毎日が労組に謝罪する形で賃金団交は再開した。だが生じたあつれきは尾を引き、26年2月現在まで新賃金制度の着地点は見えていない。

 毎日側の説明、組合側の要求は相当数積み重なっているが、導入時期は依然として未定のままだ。毎日の中堅社員は「新賃金制度の中身は不透明過ぎて、一体何が変わるのか分からなかった。組合はその中身を明らかにしようと頑張ってくれているのだが、今なお会社が何を意図しているのか解像度が上がった情報はなかなか入ってこない」ともどかしそうに語る。

 果たして毎日が提示する新賃金制度の骨格とは何か。次ページでは現行制度と比較しつつその中身を明らかにするとともに、毎日の給与事情に迫る。