
岩男にそっくりの息子がキューリオにやって来た
月刊明潮に蘭子(河合優実)の戦争体験者の記事が載った。
蘭子は八木(妻夫木聡)と粕谷(田中俊介)にも戦争の話を聞きたいと言うが、八木は「勘弁してくれ」と断り、席を立つ。その顔は険しい。
廊下で八木は、背の高い長髪の人物とすれ違う。その姿形に八木は見覚えがあり身を硬くする。
その人物は嵩に会いに来たのだ。だが嵩はその頃、『怪傑アンパンマン』の稽古中だったが、蘭子から電話をもらって急いでキューリオに駆けつける。のぶも一緒だ。
その人物は田川和明(濱尾ノリタカ)と名乗る。岩男(濱尾ノリタカ二役)の忘れ形見だ。父の顔を知らないまま父は戦死したため、自分に子どもができても父としてどう接したらいいかわからない。父のことを知る嵩に話を聞きたいという和明に、八木が岩男の最期を語る。
蘭子には当時の話をすることを拒んだ八木だったが、岩男の死の真相を知っているのは嵩ではなく八木なのだ。岩男を殺した少年の話をしたのは八木だった。
蘭子は席を外そうとするが(と言いつつ席を立つ様子はない。のぶも然り)、八木はお構いなく語り続ける。
当時のやりきれない悲劇を語る八木。
中国の少年と岩男の悲劇。
目を大きく見開いて、瞬きせず、聞き、「なぜ父は殺されなければならなかったんですか」と問う和明。「それが戦争なんだよ」と嵩。
驚くべき事実の一部始終を聞いているのぶ。首から下がかすかに動き、鼓動が感じられる。心臓がバクバクするような衝撃的な話であることが伝わってくる。今田美桜の名演技をここで見せてくれるとは。
和明と八木と嵩とのぶと蘭子のシーンは人物の心理描写が抑制されながらもワンカットワンカット丁寧に撮られ、あの中国の戦地での体験がこのドラマでどれほど重要なことかが伝わってきた。演出は『あんぱん』のプロデューサーを務めてきた中村周祐。ここへ来て重要な週の演出を手掛ける。
実体験してない者にはわからないことを、戦争体験者は胸のうちに抱えている。それは容易には語れないほどのこと。いつもはふざけたり、売れたいと願ったり儲けることを考えたりしていても、その奥底には人には明かせない地獄の記憶がしまわれている。
和明の背後の窓から強い白い光が差し込み、真実を知った和明の衝撃を照らし出す。向かい側の八木と嵩にはその光が刺すように深い陰影をつける。妻夫木は深い思索を感じさせ、北村はどこか虚無のような瞳をしている。