
岩男の息子に『あんぱんまん』を手渡すのぶ
「戦争さえなかったら」と嵩は和明に語る。
父が戦地で中国の人たちを殺し、父になついていた子どもに復讐された。そんな話を聞かされた和明は足取り重く帰っていく。たぶん、まだ心の整理がついていないことだろう。
時は1976年。あの戦争から30年が過ぎ、前年にベトナム戦争も終わって、日本は平和ムードだった。1970年には「戦争を知らない子どもたち」という歌がヒットしたほどで、戦後30年ですら、戦争の記憶が薄らいでいくことを懸念していたのだから、戦後80年のいま、どれだけ薄らいでいることだろう。
そういう意味で、和明が戦死した父のことを知りたいと嵩に話を聞きたいと考えたこと、その心意気やよしというところだろう。でもまさかこんなにも重い真実は抱えきれなかったに違いない。
和明のあとをのぶが追いかけて、『あんぱんまん』の絵本を手渡す。
「これがうちの人の気持ちです」
嵩の戦争体験を託したキャラクターと物語だ。子どもとどう接していいのかわからない和明だが、子どもが好きになる『あんぱんまん』を読んでもらうことで何かが変わるかもしれない。
「こちらこそ受け取ってくれてありがとう」と言うときの今田美桜の口調は年上の女性の風情があった。
もしここでのぶが『チリンのすず』を手渡したら、重さは100倍になってしまうだろうか。岩男と中国の少年との関係は、母を殺された狼に育てられた羊のハードボイルドな物語『チリンのすず』のオマージュと言われていたから。
ちなみに『チリンのすず』も『アンパンマン』同様、「鈴」と「すず」が作品によって表記がマチマチで混乱する。
東海林や岩男の息子など序盤や中盤を彩った登場人物たちが終盤に出てくるのは朝ドラあるある。人生の総まとめに入ってきた。