合計特殊出生率だけでは
現実がまったく見えてこない
結論からいうと、これは誤解である。
確かに、先の統計(2023年)では、47都道府県のうちTFRが最高位なのは沖縄の1.60、最下位なのは東京の0.99で、2020年の人口動態統計(確報)でも、若干数値は異なるものの、東京は最下位の47位だ。
だが、別の指標(データ)で出生率をみると、異なる風景が広がっている。たとえば、国勢調査(2020年)のデータを用いて、都道府県別などの平均出生率(出産可能な15歳~49歳の女性人口1000人あたりの出生数)を計算すると、この値が最高位なのは沖縄の48.9、第2位は宮崎の40.7だが、東京の平均出生率も31.5で、最下位でなく42位だ。
平均出生率の計算では未婚の女性も含むが、東京の前後では、40位の岩手(32.4)、41位の青森(32.2)、43位の奈良(31.4)、宮城(31.1)、京都(31)、北海道(30.8)が並び、最下位は秋田(29.3)となる。
しかも驚くべきことに、東京都心3区(千代田区・港区・中央区)の平均出生率は41.7で、既述の47都道府県の値と比較すると、東京都心3区は沖縄に次ぐ2位になる。この都心3区のうち中央区の値は45.4だ。
以上のとおり、平均出生率のランキングで比較すると、東京都や都心3区のイメージが変わってくるが、この理由は何か。それは、TFRの計算方法の特性にカラクリがある。
データを見誤ると
少子化対策の失敗に直結
TFRの定義は「1人の女性が生涯に生む平均的な子どもの数」だが、具体的には年齢別出生率を合計して計算している。この計算方法から奇妙なことが起こる。
たとえば、仮想的な例だが、今20代と30代の女性しかいない2地域があり、地域Aでは20代の女性100人が赤ちゃん30人、30代の女性100人が60人を出産、地域Bでは20代の女性20人が赤ちゃん20人、30代の女性80人が20人を出産するとしよう。
このとき、年齢別出生率の合計であるTFRは、地域Aが0.9(=30÷100+60÷100)、地域Bが1.25(=20÷20+20÷80)で地域Bの方が高いが、女性1人あたりの平均出生率は、地域Aが0.45(=90÷200)、地域Bが0.4(=40÷100)で、地域Aの方が高い。