相手への配慮や敬意があるか
日常の行動でわかる

 私は社長室にこもるようなことは少なく、普段から社員が働くオフィスのフロアに顔を出すようにしています。誰がどういう話し方をしているか、同僚とどういう接し方をしているか、そういう日常の行動にこそ、本性が見えてくるものです。

 たとえば「電話の切り方」にも、人となりが垣間見えるものです。工場の人と電話して、用件が終わった瞬間に受話器を「ガチャン」と大きな音を立てて切るような態度は、相手への配慮や敬意が感じられない。マネジャー職につけるかどうかの判断をするときにも、そうした挙動を見て判断しています。

 部下を率いるような立場になったとき、自分よりも立場が下の相手に対しても敬意を払えるかというのは、現代において非常に重要です。今の若い世代は理不尽な威圧に非常に敏感ですから、そうした態度は命取りになります。

 上司だからといって「会社が言うからやれ」「俺の言うことを聞け」と頭ごなしに命じても、今どきの若者たちは動きません。上に立つ人ほど論理的で謙虚に振る舞い、相手を納得させるだけの努力を自身で行い続けることが必要です。

イエスマンばかりでは
健全な経営はできない

 一方で、部下に対して求めるものを考えると、必ずしも謙虚であることではありません。会社のためを思い、異を唱えてくれる部下は、貴重な存在です。反対意見を言ってくれる社員というのは、それだけ会社のことを真剣に考えてくれているということ。イエスマンばかりでは健全な経営はできないと思っています。

 本気で会社の将来を考えるからこそ、議論が生まれるわけです。私自身も、創業者である祖父にはたびたび異を唱えながら、ここまで会社の改革を進めてきました。

 山櫻を創業した祖父の市瀬邦一は、日中戦争で銃弾が体を2カ所貫通しながらも生き延びた人で、尋常ではない気力の持ち主でした。いわゆる最初に話した強くて頼りがいのある、“カリスマワンマン”な経営者でした。

 社長としての威厳がすごく、社員全員に恐れられた存在。怒られているとき、私を睨んでいる祖父の目の色がグレーに変わるように見えたものです。ですが私は、時代は変わっていく、保守的なままではこの先立ちいかなくなると感じ、祖父に対しても自分の意見を押し通してきました。