重要性高まるクリエーター支援体制の拡充
ただ、コンテンツ産業の成長を加速するのは一筋縄にはいかない。クリエーターが満足のいく作品を生み出すには、多くの時間とコストがかかる。その証左として、スタジオジブリは日本テレビ放送網の傘下に入った。
スタジオジブリ代表取締役の鈴木敏夫氏は、かつてメディアのインタビューで「興行収入100億円を上回るヒット作が出ても、会社にお金は溜まっていない」と厳しい実情を明かしたことがある。傑出したコンテンツを作るには、多くのコストがかかるのだ。
クリエーターたちは製作のため昼夜を問わず仕事をする。それでもヒットする保証はない。そうした状況が続くと、映画やアニメの世界で活躍を目指す若者は減るだろう。それはわが国のコンテンツ産業の競争力に関わる。
この状況にどう対処するか、クリアすべき課題は多い。映画を例に挙げると、米国では米国映画協会(AFI)、英国では文化省傘下の国立映画テレビ学校(NFTS)、韓国は韓国映画振興委員会が運営する韓国映画アカデミー(KAFA)が人材の育成を担っている。それに対して、日本では、映画関連人材の育成は主に大学や専門学校が行っている。政府支援はほとんどない。
関連業界での働き方の改善も必要だ。勤務の不規則さ、納期の不透明性、不明瞭な費用負担の関係、契約書作成の徹底と、クリエーター側からの改善要望は多岐にわたる。
あるいは現在、わが国のコンテンツ戦略は、国レベルで明確な指針がないとの指摘もある。ソニー傘下のアニプレックスとクランチロール、映画『国宝』が邦画の興行収入の記録を塗り替えた東宝など個社レベルでの戦略が、世界の需要とマッチしてヒットが続いているというのが実情だ。
その状況を、関係省庁を巻き込み、業界全体で盛り上げることが、国内コンテンツ産業の成長加速に不可欠だ。映画やゲームの分野では、ヒットが続かず急速に収益性が低下するケースがよくある。
現状の改善と、ディズニー超え実現に向け、ソニーはクリエーター支援を重視し始めている。業界全体でこうした取り組みに連携する事業者が増えることは、日本のコンテンツ業界のさらなる競争力アップに欠かせない。ソニーが中長期的にどのような戦略を取るか、そのインパクトは個別企業の業績を超えて、世界のコンテンツ産業に影響を与えるはずだ。