その名は、本多静六。明治から昭和にかけて、林学博士として東京大学で教鞭をとるかたわら、造園家としても活躍した人物です。東京の日比谷公園や明治神宮、北海道の大沼公園など、名だたる多くの公園を設計し、「公園の父」とも呼ばれています。
一方で彼は、“開発前夜の東京”の山林の売買など、投資によって巨万の富を築きました。いまのお金に換算すると、40代にして100億円以上の資産を築いたそうです。
けれども彼は、仕事をやめませんでした。自己投資も続けました。しかも、自分が一番苦しかった時代の生活水準を、決して上げなかったのです。
「お金を儲けてぜいたく三昧の生活がしたい」なんて俗っぽい望みから、はるかに離れて暮らしていたといえるでしょう。
さらに特筆すべきは、本多氏は、東大を定年退官したあと、財産を遺せば子どもたちの争いの種になるからと、すべてを寄付したことです。文字通り「本来無一物」に戻って、余生に挑戦したといいます。まったくみごとな生き様です。
私は大学生のとき、本多氏の『私の財産告白』という本を見つけ、貪るように読んだものです。実際にご自身が実践されてきたことだけに説得力があり、私もお釈迦さまの教えに通じる彼の貯蓄法を実行しました。
残念ながら、彼のような大富豪にはなれませんが、小さいながらも利益を出し続ける事業を営めるようになりました。心底、本多静六さんに救われたと思っています。
お給料の額が増えても、生活のレベルをむやみに上げず、できるだけ「等身大の生活」を続けるよう心がける――。
それこそ豊かな人生をつくるための要諦です。