勘の悪い人に話すときのコツ
具体的な話は「一つだけ」

 ここでの対処策は、「具体的な話を一つだけすること」です。

 理想的な情報伝達では、「抽象概念」を「具体例」で補強することが重要です。

 抽象的な表現は、少ない言葉で本質を伝えたり、多くの情報をひとまとめにして伝えたりするのに役に立ちます。

 例えば、「J-POP」と言えば、個別のアーティストの名前を羅列しなくても、ひとことでジャンルを伝えられます。

 あるいは、「来店促進策」と言えば、個別の打ち手を羅列しなくても、やりたいことをスムーズに伝えられます。

 しかしながら、具体的な情報がないと、ピンとこない人もいるでしょう。

 そこで、「来店促進策」という抽象的な表現に対して、チラシ配布、店頭呼び込み、DMの送付などの具体的な施策例を挙げるわけです。

 これが、「抽象概念」を「具体例」で補強するというテクニックです。

 このやり方は非常に効果的なのですが、話を聞きながら「抽象的な話」と「具体的な話」をつなげて考えなければいけません。そのため、不慣れな人は頭の使い方に苦労するケースがあります。

 特に、今回のテーマである「勘の悪い人」にとっては、この部分が難しかったりもします。

 また、相手にわかりやすいようによかれと思って「具体例」をたくさん説明してしまうと、どんどん情報量が増え、聞き手のキャパを越えてしまう……なんてことにもつながります。

 従って、私が推奨する対処法は、「具体例を一つだけ伝える」です。

 いろいろと言いたいことを、ぐっと我慢する。抽象的な表現もしない。具体例を複数出すこともしない。今回、どうしても伝えたいこと「だけ」を伝えるに留めます。

 そういうやり方をしていると、「答え」を教えるだけになってしまい、部下が成長しないんじゃないか、と思うかもしれません。

「答えではなく、考え方を教えるべき」というのは、部下の指導・育成の観点では極めて正しい指摘です。

 それに対する私の回答は「焦らず、じっくりいきましょう」です。