F:なるほど。つまり先ほどの「個人情報は日本側で分離」「常時映像は保存しない」という線引きも、UN-R155/UN-R156という法規の枠で担保されていると。
東:はい。どこまで見て、何を見ないかを最初から切り分け、その上で型式指定の要件に沿って運用しています。
F:海外でも同じですか。
東:各市場の要件に合わせて、同様の管理を行っています。いずれの市場でも、求められる基準を満たさないと販売することができません。
海外市場では「中国のクルマは怖い」という声はないのか
F:よく分かりました。ありがとうございます。しかし“監視の恐怖”の条件は同じであるのに、海外では受け入れが進み、日本では足踏みしている。海外の人は、なぜ中国のクルマを怖がらないのでしょう。
東:分かりやすい市場はオーストラリアです。この国はかなり前から屋根の太陽光発電が当たり前で、家で発電した電気を家電と同じ延長でクルマに溜める文化があります。だから「買ったは良いがどこで充電するのか」というハードルが低い。
さらにここ10数年で乗用車の現地生産が次々と終了し、トヨタ、日産、ホンダ、三菱、フォード、GMホールデンまで工場が撤退するという背景がある。今やオーストラリアで売っているクルマは全てが輸入車です。その結果、消費者は輸入車をフラットに選ぶ土壌ができた。ブランドの国籍で身構えるより、純粋に使い勝手と信頼性で選ぶ傾向が強いんです。
F:若い頃に3年ほどオーストラリアに住んでいたのですが、確かにあちらは太陽光の有効利用という土壌がありますね。田舎に行くと各家庭の屋根にパネルが載っていた。もっとも、私がいたのは40年近くも前なので、太陽光発電ではなく、太陽光温水器がほとんどでしたが(笑)。いずれにせよ、「家の電気×自宅充電」という前提が、最初の不安を薄めるわけですね。
東:そうです。加えてオーストラリアは市場規模に対して自動車のブランド数が異常に多い。かつて輸入車にはかなりの高関税をかけていましたが、段階的に引き下げられて、今では日本に近い水準です。
地場の乗用車産業がなくなった後は「国産を守る」という心理が働きませんから、新参者でも座れる席がある。結果、BYDは年で約2万台の規模まで伸びています。人口は日本の数分の一なのに、受け入れの手順が速いんですね。
F:2万台!年間2万台ですか。オーストラリアの人口は2600万人。そこで2万台。対する日本は1億2300万人で年間500台。人口比率でざっくり20倍弱……うーむ……。