中国にデータ漏えいのリスクは残る
欧州はTikTokに約870億円の制裁金

 トランプ氏にとって、多くの支持者が使うTikTokの禁止は、自らの支持低下に直結する可能性のある問題だろう。当初トランプ氏は、米国のユーザーや経済安全保障のためTikTokの米国事業を切り離すと主張した。しかし、同氏にとって「TikTokが使える」とみると、その姿勢は変った。

 一方で、TikTokのデータ漏洩などのリスクは残っている。バイデン前政権が主張したように、米国のデータ主権の不安は高まる恐れがある。データ主権とは、自国内で国民のデータを安心安全に管理し、海外への流出や世論操作を阻止することをいう。

 現時点で、トランプ政権がどのようにTikTok利用者のデータを保護できるか、詳細は明らかではない。重要なポイントは、中国のバイトダンスがアルゴリズムを開発、運用、管理し、ビッグデータの保存を行う可能性だ。米中合意後の報道によると、売却後のTikTok米国事業は2つに分割されるという。

 一つ目の事業は、オラクルを軸とする企業連合の担当分野であり、主にデータの管理などバックオフィス業務を担う。もう一つの事業、電子商取引や広告などはバイトダンスが主導するようだ。

 バイトダンスはアルゴリズム開発を主導し、それをオラクルなどにライセンス供与する。米国内のサーバーでオラクルはセキュリティー体制を確立し、一部のデータを管理する。これはTikTokの米国事業の一部分と考えるべきだ。

 他方で米国企業は、TikTokを上回るアルゴリズムを開発できていないことが考えられる。電子商取引などでの主導的役割を加味すると、バイトダンス(中国側)が米国事業に影響を与える余地は残るだろう。そうした事業運営体制になると、米国のTikTokユーザーのデータが中国側に漏出するリスクは上昇する。

 欧州では類似の事象が起きている。5月、アイルランドのDPC(データ保護委員会)は、EU(欧州連合)加盟国のTikTokユーザーのデータに中国の従業員がアクセスしたと報告した。DPCは、バイトダンスに中国へのデータ転送時の安全対策などの説明を求めたが、納得できる回答は得られなかったようだ。DPCはEUの「一般データ保護規則」違反で5億3000万ユーロ(約870億円)の制裁金をバイトダンスに科した。

 米国でもTikTok経由でデータが中国に流出し、世論が操作されるリスクは依然として残っている。TikTokに対するトランプ氏のこだわりは、米国のデータ主権を揺るがす要素になるリスクを持っている。