愚者風リーダーシップのいいところは、この「しんどい」がありません。そもそも「愚者風」が意味するところは、「愚者のようにふるまう」ではなく、「賢者であろうとする必要がない」ということなのです。
六太はまさに、この愚者風リーダーシップのイメージが重なる人物です。
部下からいじられるくらいの
関係性がちょうどいい
僕からすれば、六太は十分に誇れる素晴らしい能力の持ち主と感じるのですが、本人にその自覚はまったくありません。日本人初の「ムーンウォーカー」であり、世間から注目を集める日々人という存在によって麻痺している部分もあるでしょうし、何より、六太自身に「人の上に立ちたい」という意識そのものがないのだと思います。
ストーリーのなかでも、「さすが六太だな。おまえは本当に頼りになるよ!」などと仲間から言われているシーンはありません。
それどころか、NASAの訓練教官に宇宙飛行士だと気づいてもらえなかったり、スタッフから「あともうひとり……誰だっけ?」なんて存在を忘れられたりと、かなり微妙な扱いをされています。
『宇宙兄弟「心理的柔軟性」リーダーシップで、チームが変わる!リーダーの話』(長尾 彰、Gakken)
まれに「ついに自分もリーダーになるときが来た」などと張り切ってクルーをまとめようものなら、「何、急にリーダーぶってるんだい。君には全然似合わないよ」と、仲間からすがすがしいほどに直球のダメ出しをくらいます。それでも六太がいると、物事が結果的にうまくいっていることが多いのです。
本人はまったく気づいていませんが、六太を取り巻く人たちの生き方にも頻繁に影響を与えています。
たとえ自覚があっても、六太はきっと、その功績をアピールしたりはしないでしょうね。そんな六太だからこそ、僕をはじめとする数多くの読者が、彼に惹かれているのだと思います。
リーダーの仕事は、メンバーを仕切ったり、命令したりすることではありません。「リード」することなのです。







