「手を使わずに、ボールを相手チームのゴールに入れる」

 これは、言わずとも知れたサッカーのルールであり、制約です。

 この制約があるからこそ、サッカー選手はフットワークの技術を磨き、戦略を練り、いかにしてチームワークを発揮するかを追求します。そしてそんな姿に、世界中のファンが熱狂しているのです。

制約が多ければ多いほど
チームは強くなれる

 僕は、『宇宙兄弟』がチームビルディングやリーダーシップを学ぶ題材としても素晴らしいものだと感じていますが、宇宙開発もまた、制約だらけの世界です。

 たとえば、月の場合、ほぼ大気がなく、重力は地球の約6分の1、温度は100度からマイナス170度という、本来なら人間が生存できない環境です。

 そんな究極の制約のもと、限られたメンバーと資材だけで「月面天文台の建設」というミッションを遂行するのですから、チームワークを最大限まで発揮せざるを得ないわけです。

 逆説的に言えば、クセが強すぎて周囲から浮いていた宇宙飛行士たちを集めたチーム「ジョーカーズ」でさえ、これだけの制約を与えられたことによって、素晴らしいチームになれたということ(もちろん、リーダーであるエディ・Jや六太の存在といった影響もあります)。

 また、スタートアップ企業は、資金や人材など限られたリソース(制約)のなかで必死に知恵を絞り、これまでにない視点やアイデア、工夫を取り入れることで、斬新なテクノロジーやビジネスモデルを生み出すことを得意としています。ある意味、制約がビジネスチャンスになっていると言っても過言ではありません。

 こうした「人の行動は、制約によって影響を受けている」という考え方は、「制約主導アプローチ:CLA(Constraints - Led Approach)」に基づくもので、主にスポーツや教育の分野で「エコロジカルアプローチ」として取り入れられています。その内容は、あえて制約を加える(意図的に設定する)ことで、行動の変容を促す、というものです。

 サッカーであれば、「指定した狭いスペースのなかだけでプレーする」という制約を設けることで、ボールコントロールやポジショニング、判断力を集中的に鍛える。片手を上げた状態でドリブルすることで、バランス感覚や視野の使い方に意識を向けるといった具合です。