しかし、娘と手をつないで歩いている友人を見たり、していいことといけないことをはっきり息子に指示している友人の声を聞いたり、友人の子育ての悩みや孤独、うまくいったことを聞いたり、雪やパンデミックで家に閉じ込められ途方に暮れながらメッセージをやり取りしたり、「この子たちはモンスターよ」と誰かの声が上がったり――そんな場面が次々と脳裏に浮かび、「母親」というラベルが徐々に貼られていく内に自分自身を見出し、すべてが少しずつ腑に落ちていく。

 アツィルが言うには、論文から導かれる結果は母親同士のやり取りに限らないという。

 子供を世話する過程、他者のアロスタシスを調整する責任を担う過程が、親たちに社会を解釈する新たな内部モデルを提供する。他者のニーズに注意を払い、応える方法を考えるため、それまで経験したすべてを組み込んだモデルだ。

 一部の親の脳の専門家は、この新たな内部モデルが社会変革の原動力となる可能性があると大胆に提言している。乳児の魅力「ベビースキーマ」を構成する身体的な特徴だけでなく、笑い声やバブバブ言う声、匂いといったものは、大人に素早い反応と遅い反応の両方を引き起こす。それが世話をする人から素早い注意を引き出し、共感や思いやりに関する専門知識を徐々に育んでいくのだと。

世界に衝撃を与えた
3歳の男の子の写真

 国立小児保健・人間発達研究所の上級研究員だったマーク・ボーンスタインとオックスフォード大学のモーテン・クリンゲルバッハらの研究グループは、これを“かわいらしさ”の力と表現し、“かわいらしさ”とは、赤ちゃんが感覚的に人を惹きつけるポジティブな特徴のすべてを指す。