これでは埒が明かないと思ったFさんは、性被害に詳しい弁護士に相談することにした。

 この事例から浮かび上がる課題は複数あります。

 まず日本の刑法では、刑事手続の対象となるのは14歳以上なので、この加害児童には刑事責任が問えません。そのためこのようなケースでは、児童相談所が主な対応機関となり、加害児童への指導やカウンセリング、教育的支援などの役割を担います。

 また性暴力に限らず、保育施設におけるトラブルについては、再発防止や損害賠償などに関して園側との交渉は避けられません。そのため事実確認を含めて弁護士に相談することにしたFさんの判断は適切だといえます。

性非行を行う児童自身も
性加害を受けている可能性が

 あまり知られていませんが、子どもから子どもへの加害も性暴力です。

 しかし、被害に遭った子どもは、それが性暴力とは気づかないことが多いのも特徴で、大人になってから対人関係における強い不安や異性との関わりの困難さ、性的な話題に対する強い嫌悪感、予期せぬフラッシュバックに悩まされるなど、深刻な心の傷に苦しむことも少なくありません。

 警察庁が2024年に公表した統計によると、性犯罪(不同意性交等、不同意わいせつ)で検挙された20歳未満の少年は2014年には431人でした。しかし、2021年から3年連続で増加し、2023年は過去10年で最多の540人。

 属性別では14歳未満の触法少年を含む中学生が249人、高校生が215人でした。また、犯罪には当たらないものの、スカートめくりや性的な画像を見せるなどの「性的いたずら(原文ママ)」で補導された少年の数も、2014年の188人から、2023年は350人に増えています。(※注1)

 このような子どもの行為に対して大人は「興味本位でやっただけ」と思うこともあるかもしれませんが、この加害児童のように、年齢に不相応な性的逸脱行為をする背景には身近な大人からの影響がうかがえます。

 場合によっては、加害児童自身が性被害を受けている可能性があり、性暴力の連鎖をも考慮する必要があるのです。

※注1 警察庁「令和5年中における少年の補導及び保護の概況」