これまで日本の熟年夫婦のモデルは、夫は外で働いて生活費を稼ぎ、妻は子育てなど家庭を守るという役割分担をし、夫婦が一緒に行動し、密接につながることは稀で、愛情うんぬんより、経済的な関係という側面が強かったといえる。

 女性のエンパワーメント(自己決定能力)の高まりにより、「配偶者との価値観の違いや性格の不一致などを我慢せず、リセットしようとするケースが目立つ」とも指摘する。

 妻側が離婚を切り出すのは、共稼ぎや実家からの遺産相続など経済的な自立のメドが立っている場合が多いという。

「一人に戻って残りの人生を自由に暮らしたいという前向きな決断もある」

パチンコにのめり込むモラハラ嫁に
生活を壊された70歳経営者

 東京都立川市の住宅街。2年前に売りに出されたその家は、あとかたもなく取り壊され、跡地に別の住宅が立っていた。

「まるで呪いの館でした」

 あるじだった男性(70)は、そう漏らす。足かけ4年を費やし、二度にわたった離婚訴訟。「離婚はしない。家からも出ていかない」。元妻(74)は、そう主張し続けた。

 周りの家々より一回り大きく見えたという「館」は、男性の両親の世話もできるから、という元妻の発案で建てた二世帯住宅だった。

 ともに40代のときに結婚。子どもはもうけなかったが、元妻は専業主婦のかたわら、男性が営む建設会社を手伝うなど、結婚して10年ほどは穏やかな暮らしが続いた。

 暗転したのは、50代後半になって元妻がパチンコにのめり込むようになってからだ。

 パチンコ仲間との会食やカラオケに時間を使い、家事を顧みなくなった。

 同居していた男性の母は、元妻にしばしば暴言を吐かれ、息を殺すように暮らしていた。その母も他界した。

 耐えきれなくなり、60歳を前に離婚を切り出したが、元妻は激怒し、「もう帰ってくるな」と、男性のほうが家を追い出された。話し合おうにも取りつく島がなく、80代の父と2人でアパート暮らしをするようになった。