原辰徳監督は招聘した口うるさいコーチを敬遠し、親しいOBを集める傾向にあり、渡邉でさえ、「原にモノを言えるコーチを入れる必要がある」と嘆いていた。
コーチとナベツネの
板挟みに苦しむ現場
私は2012年人事で、巨人の育成を主導してきた岡崎を留任させると同時に、橋上秀樹ら外部の血を巨人の首脳陣に入れることで、データ重視の野村野球を取り入れ、巨人野球とコーチ室の雰囲気を変えたいと考えていた。
土曜日にあたる5日は残った5人の2軍コーチと契約し、6日は岡崎ら1軍コーチを宮崎の秋季キャンプに送り出す予定だった。
しかし、渡邉が「君たちの言うことは聞かんぞ」と言葉を投げた翌日にコーチ契約を進めれば、絶対権力者の憤激の炎に油を注ぐようなものだ。桃井と図り、土、日は冷却期間として様子を見ることにして、「契約は少し待ってくれ」とジャイアンツ球場の部下に電話した。
彼らは動揺を隠しきれずにいた。
「どう説明すればいいんでしょうか。いつまで待てばいいんですか。みんな心配しています」
スポーツ紙が「組閣」と書く12球団のコーチ人事はその多くが1年更新で、オフのこの時期に一斉に動く。コーチたちは他球団の人事や評論家のポストを横目に、ツテを頼りの席取りゲームを争わなければならない。
その時期も終わりに近づいた今頃になって、あの契約はなかったことにしてくれ、とは口が裂けても言えない。口約束でも反故にしては選手や家族の口も干上がり、謝罪だけではすまない。球団への信頼さえ揺らぐ重大事なのだ。
スポーツ記者たちはその重みをよく承知している。わかっているのに、オーナーである桃井の頭越しに渡邉が「俺に報告なしに勝手にコーチの人事をいじくるというのは、ありうるのかね」と放言したことについて裏打ち取材もしないし、疑問も唱えない。それも悲しかった。
辞表を出すとまで言った
桃井が突如として意気消沈
――さて、どうすればいいのか。
暗澹たる気持ちで、現場に対する措置と混乱を桃井に電話で報告した。
社長は意気消沈していた。







