第二に、その属性が今後どの程度のスピードで移行しそうかを仮説化します。規制や業界標準、サプライヤーのロードマップによって、魅力が当たり前になるタイミングは大きく早まります。
第三に、属性と移行スピードに基づいて投資配分を決めます。すなわち、当たり前品質は確実に水準を満たす、一元的品質は勝ち筋のある指標に絞って磨く、魅力品質は自社の強みが活きる体験に集中して創出し、将来の標準化を見越して設計をモジュール化しておく――といった方針です。
重要なのは、消費者がスペックそのものを求めているのではなく、特定の状況で「どう便利になるか」「どのように楽になるか」といった手段を求めている点です。比較表で勝とうとする姿勢はしばしば、この目的を見失わせます。
そこで、クルマを例にすると「静粛性」を単に騒音レベルの数値で訴求するだけではなく、高速道路での会話が楽になる、夜間の運転で車内が落ち着いた空間になる、といった具体的な使われ方に翻訳することが必要となります。こうした翻訳がなされると、機能追加は単なる項目の増加ではなく、物語を持った価値提案へと変わります。
機能追従が組織内で生む
「副作用」とは
ここでもう1つ、「機能追従は組織内の学習の方向性を歪める」という副作用についても触れておきましょう。競合の動きをウォッチし、その穴を埋めるプロセスは、一見効率的に見えますが、顧客理解や体験設計に向かうべき学習投資を徐々に侵食します。結果として、将来の魅力品質を生み出す探索活動が痩せ細り、短期的な比較表の改善だけが評価される文化が定着します。これは社内ガラパゴス化への典型的な導線であり、長期的には市場変化への適応力を奪います。
消費者の実態は「最低限の合格ラインを満たしているか」「日常で本当に使う価値があるか」を素早く見極める合理性へと向かっています。企業側がすべきことは、まず当たり前品質で敗けない堅牢さを確保し、一元的品質は選択と集中で戦い、魅力品質では“自社らしさ”を体験として提示することです。そして、魅力が当たり前へと移行するダイナミクスを前提とし、追随のタイミングを戦略として設計する。比較表のマス目を埋める発想から卒業し、ターゲットの進歩に直結する価値だけを太らせていく。これこそが、機能追従の限界を超えて持続的な競争力をつくる実務の勘所だと考えます。







