小泉:意外とローテクでカバーしてますよね。ドローンはもう大量消費です。2023年にはウクライナ軍が1週間で1万機のドローンを消耗したというレポートがありました。もう砲弾を撃つのと変わらない感覚なのでしょう。そういう消耗に耐えられる側は、ドローンを有効に使えるわけです。

穴に入れるドローンの前では
塹壕が意味をなさない

黒井:私はかつてボスニア戦争の取材時に激しい砲撃戦を体験したのですが、塹壕に入っていればものすごく安心感がありました。よほど運が悪くなければ、まずあの狭い空間に砲弾は直撃しないだろうとの安心感です。

 ところが、今はドローンで上空から見られていますから、脅威度が全く違います。

『国際情勢を読み解く技術』『国際情勢を読み解く技術』(小泉 悠、黒井文太郎、宝島社)

小泉:ウクライナの戦線の多くは塹壕戦になっているのですが、塹壕ももはやただ掘ってあればいいのではなく、天蓋で擬装して、そこが塹壕であると気づかれないようにしないといけない。

 ドローンは小さな穴でも入ってきてしまう。古典的な擬装、陣地の掩体化(編集部注/敵の弾から守るため、土嚢などで設備を覆うこと)とかが意味を持ってきます。

 だから、ドローンが出てきたから全く新しい戦争が生まれるのかと言えば、そうでもない。

 ドローン登場によって、むしろ古典的な戦い方、軍事的能力の重要性に回帰していくということにもなっています。塹壕を掘るとか、偽装を入念に行うとか、古典中の古典みたいな能力ですよね。