2010年、経営悪化や債務超過を理由に会社更生法が適用され、上場廃止もなされた日本航空(JAL)。再建を託された新経営陣のもと、ハイスピードで立て直しが進められました。公的資金投入はじめ国の庇護のもとでの再建は手放しで称賛されるものではないかもしれませんが、経営、組織、サービスなど様々な面にメスを入れ、わずか2年半あまりで再上場を果たしました。
30年以上前、同様に経営難に直面していた航空会社がありました。その再建策の中心は「世界最高のサービス」。『真実の瞬間』はその立役者による名著です。
経営危機克服に若き新社長が下した選択
「世界最高のサービスで世界最高の航空会社に」
本書のタイトル『真実の瞬間』(原題は「MOMENTS OF TRUTH」)は、「最前線の従業員の最初の接客態度がその会社全体の印象を決めてしまう。その最初の15秒を“真実の瞬間”と呼んだ」ことからつけられました。
1990年3月刊行。訳者の堤猶二氏は、プリンスホテルをはじめ数々のホテル経営に携わってきた実業者です。著者のカールソン氏とは、SASと堤氏が会長を務めていたインター・コンチネンタルホテルズの資本提携において直接的なコミュニケーションが重ねられました。本書の巻末にはその際のエピソードも収録されています。
36歳のヤン・カールソンが、世界最年少の航空会社社長としてスウェーデンの国内航空会社リンネフリュ社の経営を引き継いだのは、1978年のことでした。そしてその3年後の1981年には、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン3国の民間と政府が共同運営するスカンジナビア航空(SAS)の社長に抜擢されます。累積赤字の拡大に喘いでいたSASの命運が、リンネフリュ社を短期間で甦らせたカールソンに委ねられた瞬間でした。
経営危機を脱するため、カールソンは2万人の従業員に呼びかけ、「世界最高のサービスを提供して世界最高の航空会社という評判をとる」という目標を掲げました。そのうえで「ビジネス旅行者優先の総合戦略」を策定します。唯一の安定顧客層であるビジネスマンに照準を合わせ、ビジネス市場の要望に応えるサービスを実施すれば、普通運賃を払ってくれるビジネス旅行者をSASに引きつけることができるはずだと考えたのです。
15秒の真実の瞬間にスカンジナビア航空を代表している航空券係、客室乗務員、荷物係といった最前線の従業員に、アイデア、決定、対策を実施する責任を委ねることが必要だ。もし問題が起こるたびに最前線の従業員が上層部の意向を確かめていたら、貴重な15秒間がむだになり、顧客を増やすせっかくの機会を失ってしまう。(5~6ページ)