内政の不安定化と
人民解放軍の腐敗
もう一つの要因は、内政の不安定化と人民解放軍の腐敗である。経済減速が社会不安を生み、政権への不信が広がる中、軍内部では汚職と無秩序が蔓延している。2023年以降、習近平政権はロケット軍や装備開発部門の高官を相次いで粛清した。
弾薬の水増し報告や軍用部品の横流し、不正契約などが横行し、軍の実戦能力は著しく低下している。
習指導部は「台湾統一」を掲げているが、実際の人民解放軍は戦闘準備すら整っていない。攻めることはできるが、台湾に陸軍を送って統治するのは、現状では技術的に困難である。
指揮系統の混乱、兵站の脆弱さ、情報通信の欠陥など、どれを取ってもアメリカと戦える軍隊とは言い難い。腐敗による信頼崩壊は士気の低下にもつながり、現在の中国は台湾併合どころではないのが実情だ。
こうした軍の混乱が外交判断にも影響している。軍が不安定な状態では、外に強硬策を取ればかえって体制の脆弱さを露呈する。だからこそ、習近平政権は「外で戦う」よりも「内を固める」方向へと舵を切らざるを得なかった。
今回の米中合意は
管理された「停戦」
今回の合意は、根本的な和解ではなく「管理された停戦」だと言っていいだろう。技術覇権、台湾、南シナ海といった問題は何も解決しておらず、両国は対立を続けながら衝突を避ける「制御された競争」に移行したのである。
これは冷戦期の米ソ関係とも似ている。米ソにより共存と対抗を両立させる新しい秩序が形成されたが、最終的にはアメリカが勝利した。
いずれにしても、今回の米中合意によって、日本にも一時的な安定がもたらされた。レアアース供給のリスクが後退し、EVや半導体産業には安心感が広がっている。だが、それは一時的な猶予にすぎない。中国が再び輸出制限を発動すれば、日本の産業構造は再び動揺するだろう。
長期的には、サプライチェーンの二重化と資源調達の多様化を進めることが重要である。







