現実主義と演出政治が
交錯した米中首脳会談
今回の首脳会談は、中国の現実主義とアメリカの演出政治が見事に交錯した場であった。中国は譲歩によって実利を確保し、アメリカは制裁を維持したまま外交的勝利を演出した。
トランプ大統領は会談後、「10点満点で12点の成果だ」と誇り、支持層に向けて「強いアメリカ」を印象づけた。一方の中国も「対話によって安定を得た」と報じ、国内向けに強硬姿勢を装った。
両国は「内政の延長」として外交が内政に振り回されている点は同じだが、経済的に追い込まれている中国側のほうがより切迫している。これがこの会談の特徴である。
両者の政治劇としての演出の裏には、「人民」「国民」という最も手強い存在がある。
今回の米中首脳会談は、緊張緩和ではなく「対立の制御」への転換点である。アメリカは制裁を維持しつつ同盟国と連携してレアアース供給の多国間体制を構築する時間を得ており、中国は外交的譲歩によって経済立て直しの時間を稼いだ。
だが、レアアースという切り札を先に切らざるを得なかった時点で、中国の外交的敗北は明らかだ。本来は最後まで温存したかったカードを、トランプ政権の圧力で出さざるを得なくなったのである。
アメリカが多国間協力で供給網を整えてしまえば、中国の「レアアースによる恫喝」は効力を失う。「最後の切り札」を最初に切ってしまった悪手によるものだ。
さらに、人民解放軍の腐敗と混乱によって、中国が台湾を武力併合できるような状況にはない点は、外交上の隠れた弱点となっている。国内経済の再建と体制の安定に追われる習近平政権にとって、現実を受け入れた撤退だったといえる。
米中関係は今後、激突ではなく管理された対立の時代に入る。日本はその狭間で、外交・経済・情報の三分野における主体的判断力を磨かなければならない。レアアース制裁でわかるように、重要なのは仲間を作ってチームプレーで対処することだ。
それには日本が「自らの手で自分を守れる国」になり、他国を助ける余裕を持てるかどうかにかかっている。
(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)







