これによって、少なくとも過剰診断に該当するがんであれば、治療を受けないので合併症などのデメリットは生じない。一方で、監視によってがんの進行が明らかになれば、そこで治療を選択するかを考慮するのである。
『世界は基準値でできている 未知のリスクにどう向き合うか』(永井孝志、村上道夫、小野恭子、岸本充生 講談社)
早期に前立腺がんと診断された患者を、手術、放射線治療、積極的監視の3つのグループにランダムに分け、その後、10年間追跡した研究事例がある。積極的監視を受けた545人のうち、10年間で291人が手術または放射線治療を受け、残りはとくに手術や治療は受けなかった。
その結果、3つのグループに前立腺がんによる死亡率の違いはなかったが、積極的監視のグループは、最初から手術や放射線治療法を受けたグループよりも、他の臓器に転移した割合や、がんの進行率が高かったことが報告されている。
この結果を見ても、どう判断するかは難しいかもしれないが、少なくとも勃起不全や尿失禁のデメリットは、しばらくは避けたいという価値観を持つ人にとっては、積極的監視は有望な選択肢になりえるだろう。そういう選択肢があることを、PSA検査を受けるかどうかの判断材料の1つとして知っていてもいいかもしれない。
ちなみに積極的監視もせずに完全にほったらかしにするという研究は非倫理的なために存在しない。







