これは、「あなたは前立腺がんです」と診断された人のうち、治療しなかった場合にがんで死亡する人は16%のみで、じつに残りの84%の人は放置しても死に至らない、ということを意味している(検診の受診の有無にかかわらず、治療をすれば16%のうちの一部の死亡が回避される)。

精密検査にともなう偶発症や
治療にともなう合併症の可能性も

 前立腺がんでは、がんの進行が途中で止まることが多いため、検診で見つかったがんの多くが死を招くものではなかったからだと考えられている。このことは、PSA検査で多くのがんが見つかっても、死亡率低減につながることは少ないことを意味している。

 精密検査にともなう偶発症については、精密検査が必要となった人のうち、血尿のような軽微なものから感染症による死亡のような重篤なものまでが検討されている。

 治療にともなう合併症も、軽微なものから重篤なものまでが検討され、国内での事例としては排尿困難13.8%、尿もれ12.7%、感染症8.4%、心肺合併症2.3%、死亡0.2%という割合でみられたとされている。

 ただし精密検査にともなう偶発症も、治療にともなう合併症も、医療技術の進歩によって頻度は低下していく点には留意する必要がある。

 以上をまとめると、PSA検査の結果にしたがい、精密検査を受けると偶発症のリスクを負う。そして前立腺がんが見つかると、その相当数は死に至らない過剰診断である。手術を受けると、排尿困難から死亡までのリスクが生じる。

 このようなメリットとデメリットを考慮し、検診ガイドラインではPSA検査の推奨グレードをIと判断したのである。早期診断自体は可能だが死亡率低減効果の証拠が不十分であることから、対策型検診としては推奨できないが、任意型検診として実施する場合は、過剰診断や合併症などの可能性について十分に説明すること、としたのだ。

 任意型についての物言いは曖昧にも見えるが、死亡率が低減する効果が示唆された研究事例もいくつかはあり、少なくとも任意型の受診機会を残す意義はあると考えられたのだろう。

 2008年に作成されたこのガイドラインは、2011年に新たな知見が加えられて更新されているが、この判断は変更されていない。