F:えぇ!辞職?警察庁を辞めてから出向するのですか?

池:はい。いったん辞職します。国家公務員である警察庁職員と、地方公務員である都道府県警察職員は法律上まったく別の身分ですから、そのままの肩書で行き来ができないのです。

 ただこれは制度上の扱いであって、もちろん完全に縁が切れるわけではありません。一度辞職して出向先の警察に採用。出向任期が終わればそこを辞職して再任、という手続きを経ることになります。その間は身分証や保険証も変わりますし、給与も出向先の県警から支給されます。

F:驚きました。民間企業で子会社等に出向する際は「在籍出向」と言って元の会社の雇用契約は維持されるケースが多いですが、お役所は違うんですね※。

池:私自身、これまでにいくつかの県警に出向しましたし、内閣官房など他省庁に勤務した経験もあります。他省庁の職員と一緒に仕事をし、国全体の政策づくりや調整の現場を学ぶことができました。現場と行政の両方の経験を経て庁に戻り、制度や法律の企画立案に携わる。つまり現場を知る人間が制度をつくる。これが警察庁の仕組みであり、強みであると思っています。

※防衛省のように「制服組」と「背広組」に明確な区分が設けられているのは、軍事組織に対するシビリアンコントロールの考えに基づくものだ。警察はあくまで行政組織であり軍事組織とは異なるため、警察官がそのまま政策を担っても問題はないという制度的背景がある。

なぜこのタイミングで「自転車の青切符制度」を導入?

F:警察という組織になじみがないもので、興味津々につい前段が長くなってしまいました。では今回のテーマである「自転車の青切符制度」について詳しく伺いたいと思います。

 そもそもなぜ今、このタイミングで導入されることになったのでしょう?

池:背景には、交通事故全体は減っているのに、自転車が関わる事故だけが減っていないという現状があります。昭和40年代、年間の交通事故死者数が約1万7000人となり、「交通戦争」とまで言われる時代がありました。その後クルマの安全性能向上や道路環境の整備などで大きく減少し、今では当時の10分の1程度にまで死亡事故は減っています。

F:年間1万7000人という数字もすごいですが、それが10分の1にまで減ったのもすごい。