これは「報復の連鎖が始まって収拾がつかなくなる」という懸念があるからだ。まず、薛剣氏が国外追放されたら中国側はメンツを守るため、逆ギレ的に中国にいる日本の外交官に何かしらの「報復」を行う可能性がある。
その理不尽な動きに対して、さらに日本が強硬な姿勢で報復をした場合、中国側は今度は民間人をターゲットにするかもしれない。中国国内には日系企業が1万3,000社進出してビジネスをしており、日本人も9万7538人(外務省 海外在留邦人数調査統計 24年10月1日現在)が生活をしており、これらの人々の安全が脅かされる恐れもある。実際、外務省によれば、これまで17人の邦人が「国家安全」に関する罪で中国当局に拘束され、現在も5人が拘束されているという(外務省 海外安全ホームページ)。
また、邦人排斥の動きがなくても「経済制裁」で報復してくる可能性もある。ご存じ知のように、日本は食品、レアアースなどの資源、電子機器を中国からの輸入に頼っている。中でも深刻なのが、電池や自動車部品だ。
「日本のリチウム・イオン電池の国別の輸入額をみると、中国からの輸入額は5年前の2019年比で2.6倍に拡大。構成比も55.0%から76.8%に拡大し、中国に対する輸入依存度が高まっている」(JETRO 地域分析レポート25年7月2日)
これまで対中国強硬派として知られてきた高市首相が思い切った行動に出られないのは、そのアクションを言いがかりにして、中国側からあの手この手で嫌がらせのような「報復」が続くことがわかりきっているので、慎重にならざるを得ないのだ。
……という話をすると、「最初に暴言を吐いてきたのは中国側なのに、謝るどころか報復してくるなんてムチャクチャだろ」と怒りでハラワタが煮えくり返ってしまう人も多いだろう。
悔しい思いは痛いほどわかるが、冷静に記憶を辿っていただきたい。これまで中国政府が日本に対して暴言や領海・領空侵犯やらをした後に、「私たちが悪うございました、これからは心を入れ替えます」などと素直に頭を下げたことなどあっただろうか。
そこに加えて、かの国の社会ムードを考えると、薛剣氏本人も中国政府も口が裂けても「ちょっと言い過ぎだった、ごめんなさい」などと言えないはずだ。







