まず「A」は論外だ。映画やテレビで日本の犯罪を煽られ続けた人民から見たら「弱腰」「国辱」以外の何者でもないので、その不満や憤りはそのまま中国共産党批判に向かう恐れがある。
「B」も物足りない。今年公開された南京事件、731部隊を扱う映画ではスクリーン上で凄まじい数の中国人が殺されている。日本兵が赤ん坊を取り上げて、地面に叩きつけるというシーンもあった。
そんな過去を持つ国が、台湾で何か動きがあれば集団的自衛権を行使して、中国と事を構える可能性もある、と言い出したのだ。中国の「愛国者」からすれば、「抗議」くらいで済む話ではない。
そうなると「C」くらいのリアクションをしなければ、中国共産党のメンツは守られない。「日本の侵略行為」を散々煽ってきて、「日本が同じことをしてきたら目にも見せてやる」と常日頃から勇ましいことを公言してきた中国共産党としては、これくらい荒々しい威嚇をしなければ人民から「なんだよ、結局あいつら口だけかよ」とナメられてしまうのである。
よく言われることだが、中国共産党は「抗日」「反日」というものを、人民のガス抜きに利用してきた。「日本はひどい事をやった」「日本が悪い」と騒いで、人々の意識を国外に向けさせれば、中国共産党の腐敗、内政への不満から目を背けさせることができるからだ。
こういう「統治テクニック」は、人類の歴史のなかでたびたび使われてきたのだが、あまり依存してしまうと、為政者が自分の首を絞めることになる。自分がプロパガンダで煽りに煽った民衆から、逆に「そんな弱腰でどうする」「国賊め!」と突き上げられて、引っ込みがつかなくなり、やりたくもない戦争や侵略に突入して、自滅の道を歩んでしまうのである。
在大阪総領事の暴言と
「戦前日本」の共通点
実はそれを身をもって味わったのが、戦前の日本である。その代表格が「ポピュリスト政治家」として泥沼の日中戦争に突っ込ませたと言われる、近衛文麿首相だ。
陸軍と中国軍が交戦した「盧溝橋事件」の後、日本人や朝鮮の人々が殺害された「通州事件」、海軍の大山勇夫中尉らが殺される「大山事件」で日中の緊張が高まっていくなかで、近衛首相は1937年8月15日にこんな勇ましい声明を出して、事実上の「戦争宣言」をした。







