ITツールに頼りすぎると
仕事の本質を見失う
とはいえ、この問題は生成AIブームが起きる前から顕在化しつつあった。
「マッキンゼーノート」に代表されるように、コンサル業界ではノートとペンを使って思考を整理したり、事実関係を分析したりする文化がある。以前はプレゼンの準備においても、ノートで思考を練り込んでから資料に落とし込む人が多かった。
しかしPowerPointが登場すると、上記の過程を経なくても、見栄えの良い資料を誰でも簡単に作れるようになった。そして、その弊害として「考えない人が増えた」と業界内で盛んに言われるようになった。
この構図は、ビジネスチャットやオンライン会議にも当てはまる。
チャットを使うといつでも簡単にコミュニケーションができる。仕事の生産性は上がり、多人数でのやり取りもスムーズになる。一方、メールなどと比べると、短文でのやり取りが「流れ作業」のようになり、相手の立場や背景を考えながら、じっくり頭を使ってやりとりする機会は減る。
オンライン会議も、場所を選ばずに打ち合わせができるメリットはある。だが、マイクやカメラをオフにして 「ただ聞いているだけ」「参加しているだけ」の人を生みやすい。対面の会議のように、主体性を持って「考えながら聞く人」は減ってしまう。
生成AIも、これらのツールと同じような立ち位置にいる。便利なツールなのは間違いないが、うまく付き合う必要があるということだ。アイデアのヒントをもらうために使うのは良いが、「額に汗をかく」という仕事の基本を見失う危険性をはらんでいる。
たとえ時間がかかっても、自分の頭でじっくり考えたからこそ、自分と仕事相手の双方が納得できる結論を導くことができる。老害っぽく聞こえるかもしれないが、特に若手は、このような苦労を忘れてはいけないと筆者は考える。







