夕方に帰ると、ベランダが真っ白になっていたことも。
「鳩とかカラスのエサを、ベランダに撒かれるんです。どうやってそこに置いてんのか、最後までわかんなかったですけど。投げ入れてたのかな。だとしたら凄腕ですね。甲子園に出るような元球児の不良とか、はっはっは」
異常なタフネス、底抜けの明るさもスカウト社長の魅力だと思う。嫌がらせは数カ月続いたが、彼は警察を呼ばず、引っ越しもしなかった。
歌舞伎町は狭い世界なので
逃げたらおしまい
「歌舞伎町は狭い世界なんで、逃げたらおしまいですね。こっちは義理を果たしているので、あとは意地の世界というか。意地を通していると、圧力をかけている人たちに『もう十分だろ』と、収めてくれる人たちがなぜか出てくるんです。
それも歌舞伎町の面白いところかもしれません。狭い世界のわりに、ものすごくたくさんの裏社会系のプレイヤーの人たちがいるので、意外に同調圧力は少ない」
こうして自由の身となった彼は、自分の会社法人を設立した。登記簿の紙切れの中に《人材派遣業》の文字はない。というより事実として、彼は性風俗産業に関連する広告代理店業もやっている。
だから本来は、スカウト業をやる必要がないのに、なぜかやめようとせず、彼やその部下たちが数年に一度捕まる。そして私は弁護する。
『歌舞伎町弁護士』(若林 翔、小学館)
法を犯した者をなぜ弁護するのかと不審に思う人もいるだろう。
しかし、私には、なぜ大企業による転職ビジネスは許されて、合法的な性風俗産業への転職ビジネスだけが違法とされているのか、その正当性が理解できない。不当だと考えている。
たしかに、悪質なスカウトマンやホストによって、女性が意に沿わない性風俗の仕事をさせられるようなことはあってはならない。しかし、スカウトのおかげで自分にあった転職先を探せたり、店舗とのトラブルに対応してもらったりして助かっている女性も多い。
風営法に従い適法に営業をしている風俗店を“有害な業務”として、スカウトの紹介行為や求人募集としての勧誘行為をすべて禁止する必要はないだろう。
働く条件についての明示義務や虚偽の説明、脅迫行為など働く女性に不利益をもたらすような行為を規制すれば十分ではないだろうか。







