「事務所に行ったら、何人かの先輩を紹介されて、全員月100万円プレイヤーだったので夢が膨らみましたけど、最初の1年とかはマジできつかったっすね」

 テレビでコマーシャルを流している大手人材紹介会社と同じく、スカウトの収入は「転職させた者」の稼ぎから算出される。前者の場合は「年収の〇〇%」を転職先の会社が支払うのが一般的だが、性風俗のスカウト会社の場合は、転職したキャストの「毎月の売上総額」の「5%から15%」が、スカウト側に支払われる。それが「スカウトバック」だ。

スカウトバックはおいしいが
肝心の女の子が見つからない

 たとえば、スカウトバックが10%の場合、1人のキャストが1カ月で100万円の売上を出すと、10万円がスカウト側に入る。そして支払いは、そのキャストが転職した店を辞めるまで、永遠に続くのである。

「簡単に考えれば、月に100万稼ぐ子を5人、200万稼ぐ子を3人。全部で8人転職させれば、毎月100万円以上の金が入ってくる計算になりますけど。まあ、そんな都合のいい話はないっす。

 俺がいたスカウト会社は、契約先(キャストの転職先)として、ヘルス、ソープ、おっパブがありましたから、店を移りたい女の子さえ見つけられれば、働ける場所はすぐ用意できました。でも、肝心の女の子が見つからない」

 そう、かつてスカウトは難しい仕事だった。ウェブが発達した今でこそ、虚偽の情報を掲載した人材募集サイトを使って右から左にキャストを転籍させて――人間関係を構築することなく――上前だけを撥ねる「匿名型スカウト集団」が幅をきかせるようになったが、10年ほど前まではまるで違ったという。

「スカウト会社の名刺を持てるようになって、先輩にくっ付いて勉強することになりましたけど、何にも教えてくれないですよ。かぎられた女の子をスカウト同士で奪い合っているんだから、当たり前ですけど。上の人に指示されたから、俺がスカウトの現場に付いてくることを拒否できないだけで、俺に仕事を教えたって何のメリットもないし」

 そんなわけで、歌舞伎町に拠点を置くスカウト会社に所属したはずの彼は、先輩から歌舞伎町の通りに立つことを禁止されてしまう。