サービス産業の労働問題を研究する本田一成によれば、労働組合役員に対する非正社員の組合員化に関する調査で、労働組合役員の次のような本音が語られていたそうだ。

「非正社員なんかを組織化する理由がわからない(注7)」。

 この言葉は、連帯どころか非正規雇用者への敵意さえ感じられる。しかし残念ながら、これが現実的な労働組合役員の本音の一端であろう。

 本田は労働組合が非正規雇用者を包摂しない深刻な理由として、正社員と非正規雇用者の利害が一致しない、という点をあげている。

 正社員の組合役員には次のような本音が推定されるという。

 会社は人件費削減のために、非正規雇用者を増加させている。その分、正社員の労働時間は長くなる。また非正規雇用者の働きぶりをみていると、正社員のモチベーションは低下する。それでいて、非正規雇用者を組合に加入させてしまうと、正社員とは異なる相談(非正規雇用ならではの雇用の不安定さ、処遇の低さなど)が増えてしまい、手間がかかる。そこまで手間をかけて、非正規雇用者を組合に加入させることは避けたい(注8)。

非正規を守ろうとすると
正規の利益が損なわれるジレンマ

 これはまさに、三位一体の地位(編集部注/無限定性=職種、勤務地、時間を会社命令で決められること。標準労働者=新卒入社した企業に長期雇用されている労働者。マッチョイズム=弱行き過ぎた仕事至上主義。これら3つの価値観の一体)を得ている者がそうでない者をみる視点であり、三位一体の地位規範信仰(無限定性・標準労働者・マッチョイズム)が正社員と非正規雇用者の分断を招いているともいえよう。

 具体的にいえば、正社員と非正規雇用者の利害対立には次の点が考えられる。

 まず、春闘における交渉とは、標準労働者の処遇を巡るものであった。この論点に非正規雇用者を加えると、交渉形式を根底から見直すことが必要となる。

(注7)本田一成(2009)「労働組合は本当に非正社員を「仲間」にしなくてよいのか?」『月間DIO』No.240, pp.8-10.

(注8)同前論文 本田(2009)