台湾有事という現実的脅威で
強まる戦争負担への拒否感
日本の核武装を求める声が急速に強まった最大の理由は、台湾有事の現実味がかつてないほど高まっているからである。中国は習近平の一強体制のもと、台湾統一を「歴史的使命」と位置づけ、その達成期限を徐々に前倒しすることが懸念されている。
2020年代後半から2030年代にかけて台湾侵攻が本格化するだろうという分析は、アメリカの保守系シンクタンクの内部では一般的な見解の1つとなっている。
台湾海峡が戦場となれば、日本は巻き込まれざるを得ない。第一列島線の要衝である沖縄、南西諸島を含む一帯は、中国人民解放軍が台湾封鎖を行う際の主戦場となる可能性が高い。
そうなれば、日本本土や海自・空自の基地が攻撃対象となる可能性が高まり、日本は何らかの形でいや応なく巻き込まれざるを得ない。
保守系ストラテジストのあいだでは、「日本が無防備のままで台湾有事に直面すれば、アメリカは台湾防衛のみならず、日本の弱点を補うために多大な軍事負担を背負うことになる」という危機感がある。
また、アメリカ国内では、台湾のために大規模な戦争を展開することへの拒否感も強まっている。共和党支持層の一部には、「台湾防衛はまず日本の責任であり、アメリカはその後方支援に回るべきだ」という考え方も根強い。
日本では「台湾有事は存立危機事態か」といった悠長な議論が続いているが、アメリカ安全保障の現場ではその先をどうするかを議論する段階にある。この文脈で、日本の核武装は「アメリカの戦争負担を劇的に下げる手段」として位置づけられているのである。
台湾有事を想定すれば、日本が核抑止力を持つことは、中国の判断を大きく変える。
もし日本が独自の核報復能力を持てば、中国は、台湾侵攻の際に日本を「同時に敵に回す」リスクを考慮しなければならなくなる。この新たな計算が、中国の戦略行動を抑止する重要な要因になるというのが、選択的核拡散論者の主張である。







