決して他山の石ではなく
どの業種でも起き得ること
被害者がいる会社としては、自社の従業員を保護する関係上、実態を調査し、カスハラに該当する場合は認定をして、相手方に実効性のある措置を取らざるをえない。その意味では、フジテレビ案件において第三者委員会が中居氏の行為をカスハラ(もっと具体的にいえば性加害)認定したことは間違ってはいない。第三者委員会の認定を批判した論調があるが、これは法人間におけるカスハラ事案への対応を理解していないと思われる。
一方、加害者の所属企業は、自社のコンプライアンスに関する評価やレピュテーションに大きな影響を及ぼすことから、自社および社員の名誉を守るためにも、「カスハラ認定」に対して抗議する可能性は高い。
危機管理の観点からは、被害者の所属企業は、このような抗議に反論できる実務運用が不可欠だ。しかも、加害者の企業は社員の名誉を守るため、被害者の企業からの事実調査協力依頼に対して、必ずしも協力的であるとは限らない。つまり、被害者の企業の実態調査には、一定の限界がある。これも踏まえた上で、カスハラ認定の合理性を説明できる調査体制・手法や広報体制の整備が重要となる。
その意味では、日本テレビが自社の対応の合理性の検証を、外部の弁護士など有識者で構成されたガバナンス評価委員会に依頼し、対応の正当性を説明できるようにしておいたことは、賢明な判断であったと言える。
なお、加害者の企業からの照会があったとしても、通報者と被害者の保護の観点から、必ずしも詳細を説明できるわけではない。通報者や被害者の同意を得ておくに越したことはないものの、取引関係や業績にも影響しかねないだけに、両社内ではさまざまな憶測やうわさが出る可能性もあり、情報管理は非常に重要になる。
以上のようにハラスメント対策は複雑化しており、現場の従業員を守るための対策のみならず、危機管理(広報)体制やカスハラ認定プロセス(内部統制システム)の整備も不可欠である。
カスハラへの対応は、消費者から自社従業員へのカスハラ被害防止に目が行きがちだ。しかし、法人間におけるカスハラがあることを、まず認識したい。そして、実務上は非常にデリケートな課題が多い。フジテレビや日本テレビの案件は決して他山の石ではなく、どの業種でも起き得ることとして、体制の整備を急ぐべきだろう。







