テッペイに残された
3つの「生存戦略」

 戦略面でみると完全に不利な点がいくつかあります。後発であることは当然の不利ですが、それだけではありません。モバイルSuicaの利用者は通常、スマホアプリを立ち上げません。スマホのウォレットにSuicaが入っていて駅の改札でタッチするだけです。

 実際、私の場合Suicaのアプリを開くのはチャージをするときだけです。オートチャージになっているユーザーはアプリを開くことさえないかもしれません。

 一方でテッペイを普及させようとしたら、行動経済学的にはまず「利用者にSuicaアプリを開かせる」動作を流行させなければなりません。

 これを怠ると、結局のところJR東日本の商業施設で買い物をするときだけ使う決済アプリになってしまいます。いくら「ecuteではテッペイなら割引ですよ」といったキャンペーンを行ったとしても、使うのはそのタイミングだけ。利用の広がりは、小田急や西武のポイントアプリと変わらない結果になるでしょう。

 つまり戦略抜きには後発のテッペイは使われないままで、今のSuicaと普及度は変わらないか、よりしょぼい未来がやってきそうなのです。

 ではテッペイは何をすべきでしょうか?たとえば3つの要素を裏返した組み合わせ戦略が有効かもしれません。考えてみましょう。

 ひとつめは決済の何かの切り口で「日本で初めて」のポジションをとること。たとえばですが、JR東日本の商業施設ではFaceIDと同じような顔認識でテッペイの支払いができるような技術戦略を採択するとします。

 そのことで「QRコード決済ならPayPayだけど顔認識決済ならテッペイだよ」というような状況が生まれるとテッペイは後発ではなく、先行者優位の位置をつかむことができます。これが可能性のひとつめです。

 次にインセンティブです。実はJR東日本は、孫さんがPayPayで行った常識外れのインセンティブ提供に比肩しうる武器を持っています。それがJRE BANKです。