デザインを狭い意味で捉える「問題」は
どの国でも共通

日本から50年ぶりに選出、世界的デザイン団体の次期理事長が語る「世界が求めるデザイン」と日本企業が進むべき道MAKIKO TSUMURA
慶應義塾大学文学部卒業。2010年に日本デザイン振興会に入職。以来国際担当として、インド、中国、韓国、台湾、タイ、シンガポール、トルコ、メキシコ、インドネシアなどとグッドデザイン賞を通じた国際交流を拡大。17年からは、グッドデザイン賞事業全体を統括し、21年から現職。人材育成事業や調査研究事業の新規立ち上げなど、デザイン振興に力を注いでいる。19年から23年までWDOの理事を務め、2023年、世界デザイン会議東京2023の事務局長を務めた。

――日本ではまだまだ「デザイン=造形」と捉える向きが強いです。WDOが考える“デザイン”とは、どのような概念なのでしょうか。

 デザインを造形のことだけと“狭く”理解する傾向は、日本に限った話ではありません。海外でも状況は似ていて、例えば経営や制度設計まで含めてデザインを考えるといった認識は浸透していないといえます。

 WDOでは長く「Design for a Better World(デザインによるより良い世界の実現)」を掲げていて、デザインを社会課題の解決に向けたアプローチと位置付けています。気候変動、資源、エネルギー、都市、健康といったテーマにデザイナーがどう関わり、どう選択し、どのように責任を果たすのか。こうした議論が常に活動の中心にあります。

――一方で、デザインを広い概念で捉えたときの関心領域は国によって違いますよね。

 先進国では社会課題や環境が中心ですが、新興国ではプロダクトデザインやモビリティーのような、より産業寄りのテーマに目が向きやすいんです。だからこそ、WDOとしては広い意味でのデザインの可能性を最大化しながらも、造形の質やモノづくりの価値を軽視しません。そのバランスを取ることがとても大事だと思っています。

――理事長として、日本の知見をWDOへどのように還元できると考えていますか。

 日本は自然災害、超高齢化、人口減少など、世界がこれから直面する課題を既に経験している“課題先進国”だと見られています。だからこそ、日本におけるデザインの取り組みや知見は、世界にとって非常に重要な参照点になり得ると思っています。グッドデザイン賞を通じて蓄積されてきた膨大なデータも、国際的な参考資料として大きな価値を持っています。

 日本で生まれた課題解決のデザインの試みを、プロトタイプとして世界に共有していくことが重要だと思っています。実証された取り組みを、国や地域を超えて使えるレファレンスとして提示し、各国のデザイナーや行政が活用できる形にする。WDO理事長として、そうした流れを後押ししていきたいと考えています。