経営とデザイン
長年の課題が解決しない理由とは

――「デザイン経営」や「デザイン思考」は広がった一方で、実際の企業には根付いていないという声もあります。どのように見ていますか。

 確かに「『デザイン経営』宣言」が出たときは大きな話題になりましたが、現場に浸透しているかというと、まだまだという気がしています。背景にはさまざまな理由があると思いますが、経営側に根付いている“デザイン=センスの問題”という固定観念が大きいと感じています。センスが悪いと思われたくない、分からないと言うのが恥ずかしい――そう感じて距離を置いてしまう。実はこの心理が想像以上に根深いのではないでしょうか。

――デザインが“よく分からない領域”だと捉えられてしまう背景には、デザイナー側の要因もあるのでしょうか。

 デザイナーが言語化できない領域――直感や経験に支えられた判断――は確かにありますが、それは職能の一部でもあるんですね。ただ、その部分が「よく分からない世界」として経営側に映ってしまっている。その結果、「センスのある人たちがやる特殊領域」として隔離されてしまう構図があるのではないでしょうか。お互いが歩み寄り、分かりやすい言葉やプロセスで橋を架ける努力が必要だと感じています。

――その歩み寄りには何が鍵になりますか。

 一番大事なのは、たとえ小さくても成功体験を共有することです。プロダクトでもプロセスでも構いません。経営側が「あ、デザインってこう効くのか」と腑に落ちる瞬間があると、組織の空気がガラッと変わります。そこから対話が生まれ、デザイン部門への信頼が育っていく。逆に、この実感がないまま組織や制度だけ導入しても、デザインが根付くのは難しいと思います。

――デザインの長期的な時間軸と、短期的な成果を求める経営の時間軸は、そもそも認識として合っていないと感じます。そのギャップを埋めるには何が必要でしょうか。

 おっしゃる通りで、デザインが成果に結び付くには一定の時間がかかります。そこで経営環境が揺らぐと、「じゃあまずデザインを削ろう」という判断が出てしまう。「なくても回る部門」という認識になりがちなんですね。

 ただ、日本企業には短期的に効いてくる突破口もあります。海外で評価されると、一気に社内での見られ方が変わる傾向があるんです。実際、外部から褒められることでようやく自社のデザインの価値に気付くケースは多い。だからこそ、海外の場で日本企業が評価される機会を増やすことは、デザインを経営に根付かせる一つの有効な手立てになると感じています。

 とはいえ最終的には、経営者には決めたら「ブレない胆力」が求められます。途中で揺れてしまうと、積み上げてきたものが全て振り出しに戻ってしまう。ここが、デザインが経営に根付くかどうかを最も左右する部分だと思っています。