際立つ企業内デザイン組織の存在
その強みと弱み
――先ほど「製造業ベースの経済」という言葉がありました。企業のデザインの在り方という視点で見ると、海外と比べてどんな特徴がありますか。
大きな違いは、“分断されていない”ことです。欧米では産業構造が大きく変わり、そもそもモノをつくる現場そのものが国内に残っていない国が少なくありません。製造を海外に委託する流れが続いた結果、デザイン、開発、製造が完全に切り離されてしまい、デザインだけが先鋭化して独立しているケースも見られます。現場との行き来が難しくなっている国も多いのは、そのためです。
一方、日本には今も幅広い製造業が国内にしっかり存在していて、設計・試作・生産の現場とデザイナーが近い距離でやりとりできる環境が残っています。これは実は、とても貴重な状況だと思っています。
――それが日本の企業の強みになる、と。
デザインとその他の機能が一体になり、細かな調整や改善を重ねながら最適な形を探っていくプロセス――。こうしたモノづくりの進め方が今も残っていること自体、インハウスデザインの大きな強みですし、日本はその価値をもっと自覚していいと感じています。

――インハウスデザインが強い一方で、個が企業という器に隠れてしまう面もありますよね。これは裏返すと弱みにもなりませんか。
その通りで、日本のデザインは評価されているのに、“誰がつくっているのか”が見えにくいことが大きな課題だと思います。グッドデザイン賞でも、大企業ほどデザイナーの名前が表に出にくいんですね。本来は表彰状にもウェブサイトにも個人名を記載できる仕組みにしているのですが、実際には企業名だけ、あるいは「○○会社デザイン部」といった表記になってしまう。これは日本らしい奥ゆかしさともいえるのですが、世界に向けて自分の仕事や価値を表現する姿勢が、やや弱いとも感じます。結果として、国際的に知られる個人名が非常に少なく、海外のイベントや議論の中で日本の存在が埋もれてしまうことが起きています。実力はあるのに、声が届いていない――そんな状況です。
それだけが理由というわけではありませんが、多くの優れたデザイナーが“外に出ない”ことを懸念しています。国際会議や交流の場に参加して、議論したり、違う文化圏のデザイナーと価値観をぶつけ合ったりする機会が少ない。そこは評価される機会になるだけではなく、デザイナーとして新しい気付きを得られる場にもなるはずです。言語の問題や地理的なハードルがあるのは理解していますが、そうした機会に意識的にリソースを割いてほしいと感じています。







