グッドデザイン賞への批判は的外れか
審査の背景にある社会的要請
――社会課題の解決に資するデザイン、という意味では、近年、グッドデザイン賞が“コト寄り”だという批判もあります。どのように受け止めていますか。
前提として、グッドデザイン賞は「異種格闘技」なんです。プロダクト、建築、サービス、地域の取り組みまで、非常に多様な応募が一つの土俵に並び、その上でグッドデザイン大賞として「その年のベスト」を一つ選ぶという構造です。
近年は社会の困りごとが深刻化していて、それに応えるプロジェクトが選ばれやすい傾向が生まれるのは自然なことだと思います。ただし、それは決して造形を軽視しているという意味ではありません。優れた造形のプロダクトは、今年(25年)もこれまでと同じように金賞としてきちんと評価されています。そもそも“モノ”と“コト”は切り離せるものではありません。優れた造形の背景には必ず思想や仕組みが存在しますし、逆に仕組みの良さも表現の質と結び付いています。一体として評価する流れをつくることが大切だと思っています。
――評価の構造的な変更も進めていると伺いました。
今年からは全20カテゴリーそれぞれで「その分野のトップ」を金賞とする方式に改めました。プロダクトの評価がその他のジャンルの議論に埋もれないように、領域ごとの評価をきちんと可視化したいという意図です。

――デザインの価値を広く共有していくには、行政のメッセージは重要だと思います。日本のデザイン政策についてはどのように見ていますか。
日本は戦後から続く「製造業ベースの経済」が基盤にあるため、デザインの役割をモノづくりのごく一部と捉える認識が根強く残っています。これをアップデートするのは簡単ではありません。ただ、だからこそ社会課題に向き合うデザインの重要性を、政策として明確に打ち出すべきだと感じています。
象徴的なのが英国の例です。デザイン政策を事実上担うデザインカウンシルが「30年までに100万人のデザイナーにグリーンデザインのスキルを向上させる」と宣言し、行政としてデザインの役割と必要性を明確に示しています。環境問題や社会課題に取り組む上でデザインが不可欠であるという認識が、国家レベルでしっかり共有されているといえます。
地震や津波などの自然災害、超高齢化、少子化など、日本が抱えるテーマは世界共通であり、最前線にあります。デザインの力をそこにどう投じていくのか――国家としての日本のビジョンがまさに問われていると思います。







