しかし、そこでいきなり頭ごなしに「規制を厳しくします」とか言い出すと「民業圧迫」だとか「管理社会」だとか叩かれてしまう。また、人には「愚行権」があるので、金融庁から見ればバカバカしく見えるような“安易な借金”でも、本人にとっては生きていくうえで欠かせない借金ということもある。そこを国家があれやこれやと指図するのもいかがなものか、という意見も当然出てくる。

 そこで、「わあっ! 多重債務者が急増している!こりゃ規制を厳しくしないと」というニュースを仕掛けて、規制強化のための“地ならし”をするのだ。霞ヶ関や永田町で仕事をしたことがある人ならばわかると思うが、これこそ高級官僚が“出入り業者”のマスコミを使って行う「政策推進のための世論操作」というヤツだ。

借金規制で客が増える
「ヤミ金業者」の証言

 ……という話を聞くと、「確かにそういう側面もあるかもしれないが、これ以上、多重債務者を増やさないためにも軽々しく借金できないうように規制を強めるのはいいことじゃないか」と金融庁を応援したくなる人も多いだろうが、それは「多重債務者の現実」を知らなすぎる。

 筆者はかつてヤミ金や詐欺グループの取材をよくしていた。そこで彼らにアゴで使われ「出し子」などをさせられていた多重債務者をたくさん見た。彼らの多くは、拉致されて脅されたわけでもなく、騙されたわけでもなく、自らの意志でそこにいた。なぜかというと、「総量規制」によって正規の貸金業がどこも金を貸してくれず、ヤミ金や詐欺グループしか彼らを相手にしてくれないからだ。

 つまり、多重債務で苦しんでいる人の多くは消費者金融などから「総量規制でもうこれ以上、お貸しできません」と断られたら「はい、そうですか」とおとなしく引き下がるわけではないのである。

 借金の返済、生活苦など事情は人によってさまざまだがとにかく今すぐキャッシュが必要なので、総量規制を守らずに貸してくれるヤミ金か、この窮状をひっくり返すことができるような違法な闇バイトにすがるしかない。