そんな「多重債務者の現実」をうかがわせるようなデータがある。それは特殊詐欺の認知件数だ。ご存じのように、この手の詐欺は指示役と実行犯とが明確に分かれていて、実行犯は多重債務者や闇バイトに応募してきた若者などが「使い捨てのコマ」のように扱われる。

 総量規制が導入された2010年の特殊詐欺の認知件数は6888件だったものが、年を追うごとに増えて2013年には1万件を突破、18年には1万7844件にまで増える。コロナ禍で一旦減少するが、すぐに持ち直して2023年には1万9038件、2024年には2万件を超えるのだ。

 この統計も先ほどと同じく途中で特殊詐欺としてカウントされるものが8手口から10手口に増えているので、この数字をそのまま鵜呑みにはできないが、認知件数が右肩あがりで増えていることは間違いない。それはつまり、この手の詐欺に必要な「使い捨てのコマ」も右肩あがりで増えている可能性があると考えるのが自然だろう。

特殊詐欺 認知件数の推移 (2010年〜2024年)注)平成16年及び17年の数値は、3手口(オレオレ詐欺、架空料金請求詐欺及び融資保証金詐欺)の合計、平成18~21年の数値は、4手口(オレオレ詐欺、架空料金請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金詐欺)の合計、平成22~29年の数値は、8手口(オレオレ詐欺、架空料金請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金詐欺、金融商品詐欺、ギャンブル詐欺、交際あっせん詐欺及びその他の特殊詐欺)の合計、平成30年及び令和元年の数値は、9手口(オレオレ詐欺、架空料金請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金詐欺、金融商品詐欺、ギャンブル詐欺、交際あっせん詐欺、その他の特殊詐欺及びキャッシュカード詐欺盗)の合計、令和2年以降の数値は、10手口(オレオレ詐欺、預貯金詐欺、架空料金請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金詐欺、金融商品詐欺、ギャンブル詐欺、交際あっせん詐欺、その他の特殊詐欺及びキャッシュカード詐欺盗)を合計したものである。金融商品詐欺、ギャンブル詐欺、交際あっせん詐欺及びその他の特殊詐欺の4手口については、認知件数・被害総額は平成22年2月から、検挙件数・検挙人員は平成23年1月からの集計値である。

 手前味噌だが、このような「総量規制によって多重債務者が闇に流れる」という問題については筆者は15年前から繰り返し警鐘を鳴らしてきて、金融庁のヒアリングに呼ばれて報告もしたし、国会議員にも伝えてきた。

 当時、筆者が取材していた違法ビジネスに関わる人々は口をそろえて「借金の規制強化」を喜んでいた。総量規制によって正規の消費者金融から金を借りられなくなった低収入の人々、つまり若者やパート主婦などがネットやSNSを介して「総量規制に関係なくカネを貸すヤミ金」や「未経験者でもできる高収入バイト」などの怪しい話に自ら飛び込んできてくれるからだ。

 あるヤミ金業者は「総量規制のおかげで大忙し」だとホクホク顔で語っていた。そして利息を払えなくなった者を、オレオレ詐欺の出し子などにあっせんしている、と笑っていた。

「これからの日本は強盗とか流行しますよ。私はやらせないけれど、やばい連中は金さえ回収できればいいんだから何でもやらせますよ。多重債務者の連中は、どこも金を貸してもらえないんだから、逆らえないでしょ」