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米トランプ政権の発足で世界経済は激変し、予測は混迷を深めている。特集『総予測2026』の本稿では、いずれも財務官を経験した前日本銀行総裁の黒田東彦氏と前国際通貨研究所理事長の渡辺博史氏に、経済や為替の読み解き方を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
トランプ関税ショックの影響がまだ出ていない
米インフレを占うクリスマス商戦
――2025年は米国のトランプ政権に世界が振り回されました。
黒田東彦氏 トランプ関税ショックで世界経済の分断がさらに進みました。ウクライナ戦争でロシアと欧州経済の分断が生じましたが、トランプ関税以降はG7諸国と中国・ロシアが完全に分断され、事態が深刻化しています。これが今後の世界経済の成長率に大きな影響を与える可能性があるでしょう。
トランプ関税ショックは、米国経済がさらなるインフレとなって消費が落ち込み、経済成長率が低下していく懸念が一番大きい。ただ足元でそういう事態になっていないのは、世界経済の分断化の影響は中長期的に出るからです。
渡辺博史氏 トランプ関税のインフレの影響が想定通りに出ておらず、「謎だ」という声があります。理由の一つは、関税が課されたのは25年4月以降ですが、実際に米国で9月ごろまで販売された商品には、関税発動前に輸入されたものを含むからです。また、日本の大手自動車メーカーは円安になった際に価格調整をせず、懐に入れていた利益を今吐き出して現地の販売価格を維持しています。
ただ、注目はクリスマス商戦です。24年のクリスマスプレゼントで売れた商品の85%は中国製で、10%弱が任天堂だという話があるのですが、この85%を作る中小企業は価格調整する体力がなく、関税分を価格転嫁し、じわりと価格が上がっていく。だから11、12月のインフレ率は上昇するかもしれないという見方があります。
黒田氏 自動車や自動車部品などの輸出企業も、当初は関税分を自ら負担し、輸出価格を下げて様子を見ていました。しかし徐々に関税分を輸出価格に乗せるようになり、米国の輸入価格も上がってきています。26年には関税分がフルに価格転嫁され、消費者物価が上がり、消費は落ち込むでしょう。
渡辺氏 もう一点、関税の影響が米経済にそれほど出ていないのは、実はドルが強いからです。実質的な輸入物価はそこまで上がっていないのです。日本は逆の事態で、輸入物価が上がっているのですが。
この点を踏まえると、トランプ米大統領がFRBのパウエル議長に、「金利を下げろ、下げろ」と言っていますが、金利を下げてドルが下落すれば、物価上昇率が上がるリスクがあります。
トランプ関税の影響は26年に本格的に出てくると指摘した黒田氏と渡辺氏。次ページでは、ドルの弱体化や、日米金利差が縮小しても円安が続く理由など、経済と為替の読み解き方を元財務官2人に明かしてもらった。







