(2)結果だけで判断しない

 フィードバックを受ける側にとって相手が「自分がこれまでやってきたことをどれだけ理解しているのか」は非常に大事なポイントだ。そこの理解があるのかないのかでフィードバックの説得力、納得感が大きく変わってくる。当然、目の前の結果だけしか見ない人間の言葉は受け手には響かない。

 粗品の審査に説得力を与えたのは、決勝出場全組の予選3ラウンドを全て見た上で審査していた点だ。たとえばオーパスツーというコンビの審査では「序盤の『“でも”の使い方やばいし』ってヤツは個人的にはROUND2の間の方が好きでした」と語り、「えっ、ラウンド2を見てくれてるんですか」と驚くオーパスツーの2人に対し、粗品は「もちろん、もちろん」と当然のように話した。

 また粗品は大会後に出したYouTubeの中で、審査について「1回戦、2回戦、3回戦を見て、本当はこのネタもっと受けるのにというのは加味している」とコメントしている。つまり目の前(決勝)の出来だけでなく、それまでのプロセスもきちんと見て評価しているのだ。コメントをする立場として非常に真摯であり、フィードバックを受ける側にとっても非常に信頼できる存在と言える。

 ビジネスシーンで言えば、部下の提出した日報や過去のプロジェクトの経緯を頭に入れた状態で面談に臨むようなものだ。「今の数字は悪いね」とだけ言う上司と「君がこの3カ月間、○○に苦戦していたのは知っている。そのうえで言うが……」と言う上司。言葉の重みが違うのは当然だ。

 粗品は、この「事前の準備コスト」を支払うことで、厳しい指摘を受け入れてもらうための「信頼残高」を稼いでいるのだ。

(3)説得力を生む「実績」と「現場理解」

 フィードバックをする人物が、その分野で一流の人間であることは最強の説得材料となる。その上で、粗品の説得力は群を抜く。

 漫才師の憧れである「M-1グランプリ」に2018年、霜降り明星として優勝し、翌2019年に開催されたピン芸人No.1を決める「R-1ぐらんぷり2019」でも優勝し、史上初の2冠を達成している。さらにYouTube「粗品 Official Channel」は登録者239万人、別チャンネル「粗品のロケ」は登録者92.4万人と成功。恒例企画「1人賛否」などの人気企画も生み出している。この圧倒的な実績が、言葉により重みを出している。

 もちろん、誰もが粗品のような華々しい実績を持てるわけではない。しかし、ここでビジネスパーソンが学ぶべきは、単なる過去の栄光ではなく、彼がYouTubeといった「現場の最前線」で戦い続けているという点だろう。

 部下が最も白ける瞬間の1つが、安全地帯から「俺の若い頃は……」と過去の武勇伝を語るだけの上司だ。現場のトレンドや環境の変化を理解せず、古びた物差しで評価を下す上司の言葉を現場で働く人は聞く気になれない。

 現代の管理職に求められるのは、過去の栄光にすがるのではなく、部下と同じかそれ以上に「現場の解像度」を高め続ける姿勢だ。「この人は今の現場の難しさを分かってくれている」という共感と「口だけではない」という信頼こそが、フィードバックに説得力を与える土台となる。