AI分野は米中双方が
握る「チョークポイント」

 米中のハイテク分野での対立は多岐にわたる。その発端の1つは、第1次トランプ政権期に実施された中国・ファーウェイ排除措置にさかのぼる。米政府はファーウェイを制裁対象企業(エンティティ・リスト)に指定し、5G基地局や通信機器からの排除を進めるとともに、米国技術を用いた半導体供給も規制した。

 この結果、中国企業によるスマートフォンや通信機器の国際展開は大幅に制約され、ファーウェイ問題は米中技術対立の象徴となった。

 その後、コロナ禍でサプライチェーンが混乱するなか、「半導体の確保」が安全保障上の重要課題として浮上した。米国は同盟国に対して対中規制への協調を要請し、中国は半導体の国産化を一段と加速させるなど、技術分野は地政学と密接に結び付いた。

 そして、現在、両国が最も激しく競り合う領域としてAIが挙げられる。AI産業のバリューチェーンを俯瞰(ふかん)すると、米国と中国はいずれも代替が難しい要素(チョークポイント)を保持していることが分かる(図表)。

 まず、ChatGPTなどのAIアプリケーションは大規模言語モデル(LLM)を基盤としており、その性能向上には先端データセンターの膨大な計算資源が不可欠である。データセンターで中核的役割を果たすAI向け半導体は、

・米国エヌビディア(NVIDIA)による設計
・オランダASMLによるEUV(極端紫外線)露光装置の供給
・台湾TSMCによる先端プロセス製造

 といったように、サプライチェーンの基幹部分が西側諸国と台湾の企業に集中している。この点で米国は、輸出規制や投資規制を通じて制度的・外交的な影響力を発揮しうる構造にある。

 一方で、こうした先端半導体や製造装置の生産に欠かせないレアアース(希土類)やガリウム、ゲルマニウムなどの重要鉱物については、中国が採掘・精錬の分野で圧倒的なシェアを持っている。このため、中国は重要鉱物の供給を戦略カードとして活用できる構造にある。実際に、2025年にはレアアース関連の輸出管理措置が打ち出され、その後の米中交渉の焦点の一つとなった。

 AIは、モデル開発からデータセンター、半導体、重要鉱物まで、多層的なチョークポイントが連鎖する産業である。米国は「半導体・装置・製造プロセス」、中国は「レアアースなどの重要鉱物」というチョークポイントを握っており、AI分野は今後も米中対立の中核舞台であり続けるとみられる。